アンポテンツ 公演情報 劇団チャリT企画「アンポテンツ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    塀際の門外漢
    この劇団を最初に見たのは7年前。あのときはまだ吉本菜穂子が在籍していた。2本見たところで彼女が退団し、そのあと続けて何作か見たあと、しだいに足が遠のいた。なのでやや久しぶりな感じがする今回の観劇。
    舞台全体に塀が広がっていて、その手前で話が展開するというのは、かつて「ドウニモタマラナイ」という作品で使っていたアイデア。
    出演者の顔ぶれはだいぶ変わったけれど、長岡初菜や小杉美香という私にとっては新顔の劇団員をはじめ、演技のレベルは昔よりも上がった気がする。

    「アンポテンツ」というタイトルを見て思い出した話。
    昔、テレビの対談で三宅裕司が学生時代のことをしゃべっていた。彼が明治大学の学生だったころがちょうど70年安保をめぐる学生運動の盛んな時期で、周囲では連日デモ隊が安保粉砕を叫んでデモ行進をしていた。落語研究会に入っていた三宅はそうした政治運動に好意をもっておらず、むしろ苦々しく思っていたという。ある日、デモ隊をからかってやろうと思い立ち、デモ隊の「アンポ反対」という掛け声のあとに、「インポ治せ」という合いの手を入れながら、仲間といっしょにデモ隊の横に並んで行進した。「アンポ反対!」「インポ治せ!」「アンポ反対!」「インポ治せ!」・・・そんな息の合ったシュプレヒコールがしばし巷に響いたという。

    この芝居でも似たような話がちょこっと出てきたが、要するにアンポとインポという語呂合わせは当時からすでにあったということだ。
    とはいえ、この芝居はじかに安保闘争を扱ったものではない。デモ行進からはぐれた3人組のデモ隊は登場するけれど、職と住まいをなくしたホームレスのカップルはどちらかというと、最近の話題である派遣村の若者を連想させる。塀の向こう側ではなにか危険なことが起こっているようすで、塀から連想されるのは今はもうなくなってしまった東西冷戦の象徴であるベルリンの壁。
    塀の中央には観音開きの門扉があり、いつ開くかわからない門のそばで待つ人たちがいる。若いカップルはコンドウだかゴンドウだがという人物が門の向こうから現れて仕事を斡旋してくれるのを待っているが、結局芝居の最後まで門は開かない。この辺はベケットの「ゴドーを待ちながら」がモチーフなのかもしれない。また門の向こうに危篤の知り合いがいて、必死に向こう側へ行こうとしている人物には太宰治の「走れメロス」が重なってくる。さらにまた塀には門番がいて、彼と門外の人々とのやりとりからは、隣国に脅威を感じるかどうかという認識の差、そこから生まれる軍事力は要不要かの議論、そんな問題にも触れているようだ。

    一つのテーマを掘り下げるというよりは、塀と門のある架空の場所を舞台にして、いくつかのモチーフを重ね合わせた作品だろう。

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    2010/05/03 12:19

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