動け!人間! 公演情報 鰰[hatahata]「動け!人間!」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    Y字路
     なんとなく『深海魚』と呼ばれている方。ヤバい! 面白い! 演劇なのか、ダンスなのか。どっちにも通じるY字路みたいなところで、どっちにも進まないでふらふらするパフォーマンス(?)の面白さの源は、なんともいえないもどかしい距離感にある! ……と思うんですけど。どうでしょう(観方のひとつの提案です)。

    ネタバレBOX

     人間は、動物なので、雰囲気に応じてカラダのモードを変える。たとえば「ドスの効いた声」を聴いたカラダは「不穏モード」に変換されるはず。こういうモードチェンジは、実はとっても細かく条件づけされていて、僕らは「こんなことで!」と思うようなことで、「こんなモードが!」というような思いもよらないモードに勝手に切り替わってしまった自分に気づくことがあったりする。

     冒頭、宮崎晋太朗と米田沙織が素舞台に登場。ちょっとしたやりとり(お互い、言葉の間に「あ、」とか「え、」とかが入るような、微妙な距離感)の後、背筋の運動(ふたりひと組で、お互いを背負うやつ)をスタート。ここでこちらは、「ん」? なにやら客席のカラダのモードがぐにゃぐにゃっと迷うのだ。……と、「テュテュテューン……」と『ラブストーリーは突然に』の冒頭のフレーズが流れて客席爆笑。すかさず「好きだー!」と宮崎。僕はもう、ここで、やられた。

     なにが起こってるのか、考えてみよう。微妙な距離感の男女が、カラダを密着させて、背筋の運動をする。それだけで、観ているこちらは、なにやら「男と女の意識のめばえ」みたいなものが目の前で展開されることに備えるモードのカラダのスイッチに手がかるのではなかろうか。面白いのは、ここで、ぐっとタメが入る(宮崎がゆっくりと、背負ってる米田の手を握る)こと。こちらはスイッチ押そうとするのに、ぐっとたまってつんのめる。その間にこちらは「カラダが次のモードを探ってる」状態にとどまらざるを得ない。「次に行くの? 行かないの?」と迷う。普段意識に登らない、自分のカラダが対応すべき状況を「迷っている(探ってる?)」モードを、しらずに意識させられる。

     「テュテュテューン……」

     このワンフレーズ。すごい。問答無用でラブモードにスイッチオン。客席の笑いには、安堵の色も見えただろう。

     振り返ればこの舞台、こういう、カラダのモードチェンジの隙間、とでも言うような時間を繰り返し、それもしつこくつくりだす。冒頭のラブストーリーモードもすぐに疑わしくなって、新たなモードをこちらは探り出すことになる、というように、場面の空気を小刻みにズラしていくことで、観ている側の、カラダのモードの決定機構にどんどん揺さぶりをかけるのだ。

     揺さぶられつづけるカラダと意識は、舞台と観客との距離感を意識させるだけでなく、観ている自分の、つまんないスイッチ(ウルトラクイズの音楽とか)で勝手に切り替わろうとするカラダと、そんなカラダのふがいなさをもどかしく感じる意識の間の距離まで認識させはじめる。意識とカラダ、自分の中のふたつの他人が浮かび上がる。

     人間が、自分のカラダのモードを目の前の場面に応じて変えるということは、見方を変えれば、その場面をカラダが把握しようとすることへの欲望、といえるかも。どんどんずれて把握を拒むあり方自体は現代芸術として当然かもしれないけど、その拒み方は、とってもユニーク。舞台と客席。意識とカラダ。色んなものが、関係しそうで関係しない。ギリギリの距離を残して、お互いを見つめ続ける。

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    2010/05/03 02:24

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