鉄音、轟然。 公演情報 M²「鉄音、轟然。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。
    三里塚闘争を空港建設反対同盟 ーいわゆる地元住民の観点から描いた骨太<回想>作品。この団体のコンセプト「歴史上の事件を題材に、そこから紡ぎ出される重厚な人間ドラマ」は、見事に描き出されていた。大きな事件の中に息づく人々を冷徹に見つめ、事<コト>の本質を炙り出す。<当時>渦中の熱き闘争と それを<現在>冷静に観察し解説するような構成によって紡ぐ。

    三里塚闘争の経緯等は、(取材)資料や映画上演で ある程度知ることは出来るが、本当のところは解らない。劇中の台詞…報道に関して、遠くから回したカメラだけでは窺い知ることは出来ないと。物語は、空港建設反対同盟の立場から描くこと、そこで暮らしていた人々の悲痛な叫びを訴えることで、同じような事ーー例えば沖縄米軍基地問題、原発などへの問題提起として捉えている。国の理不尽な行為には声を上げること、決して黙してはならない。

    反対運動が過激になる中で、一人の老女に焦点が…。始め よね(内海詩野)さんとしか呼ばれていなかったが、後々、仁王立ちになり激烈な言葉を吐くようになる。その苗字が”大木”と知れた時、机上の資料とは違う、舞台ならではの面白さ。そして歴史<事件>の中に感動的な人間ドラマがしっかり立ち上がった。

    彼女の家に集まり、地に足が(愚にも)つかない理論や理屈を話すのではなく、これまでの彼女の生き様(地に足をつけた)を聞き出す。彼女が、この地で暮らすことの意味、それがこの地で暮らす住民〈農民〉の総意を表す。当たり前の暮らしが脅かされることに対する怒り、雄叫びが観客の心を揺さぶる。
    (上演時間1時間35分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、中央を一段高くしその真ん中にパイプ組した塔のようなモノ、そこにヘルメットや布地が巻き付いている。舞台と客席の間に潰れた空缶や三角コーンが散乱している。三里塚闘争現場のイメージだが、何となくスタイリッシュな印象をもつ。

    女性記者が三里塚闘争の当事者・菅本(住民で反対闘争をしていた人物)から話を聞く、そんな取材⇒回想劇として描く。物語は闘争の経過を順々に展開していくが、あくまで観点は反対住民の側である。この種の演劇で国<行政>側の観点として描けるだろうか。そして闘争は住民以外の勢力を巻き込んで激化していく、というのは周知のこと。武力衝突、国は上手の高台(2階部)から拡声器を使用して「大量輸送時代の幕開けと高度経済成長によって日本の航空需要は急激に増大しており、旅客需要の伸びと航空機の発着回数の増加傾向に対応する」といった一辺倒の説明しただけの描き方である。

    反対住民の集会へ頻繁に現れる老女、彼女の行動に興味を抱いた青年が菅本に取り次ぎを依頼したところから、反対同盟という組織から、その中の個人の戦いへ軸足が移った描き方へ変わる。何となく違和感を持って観ていたが、老女の名が「大木よね」と分かった時、記憶の底に眠っていた、というか 燻っていたことを思い出した。勿論 後日読んだ記事か何かである。公演は、反対同盟という組織ではなく、個人の意思で反対する理由と必然性を説明し、反対運動によって生き甲斐を得た老女の姿を生き生きと描く。それは遠くから眺めたニュースとは違って、リアル(切実)な思いが伝わってくる。反対に説明不十分で強権発動した国<行政>の理不尽さが強調される という巧さ。

    舞台技術…冒頭、色々な所の小電球が点滅を繰り返し、何やら不吉な印象を与える。同時に滑走路の進入灯かとも思えた。一方、音響は鉄を打つ音、その重い響きが印象的だ。また武力衝突時に焚かれるスモーク、そして何より団結を示す雄叫びやシュプレヒコール、その肉声に緊張と迫力が漲っていた。
    たとえ鉄塔が倒れても人<心>は倒れない、そのメッセージは今も続く。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/03/11 06:38

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