実演鑑賞
満足度★★★★★
お話はほとんど伊藤野枝物語である。野枝が九州の婚家を飛び出して東京に来るところから甘粕大尉らによって殺害されるまでを概観する。登場人物が皆さん濃すぎるので表面をなぞっただけでもこの長さ(75分+休憩15分+90分)になってしまう。
新国立劇場演劇研修所第16期生の修了公演。10月の試演会「燃ゆる暗闇にて」は盲学校の話ということで表情も動作もかなり抑えられていて正に研修というものであった。研修生には個性を発揮しないことが求められたのではないかと想像する。しかるに今回の修了公演では打って変わってキャラの濃い人々ばかりが登場する。研修生の皆さんは生き生きとして個性を存分に振りまいていた。
・らいてう(越後静月)美しい物腰が印象的。そのまま舞台でも映画でもTVでも通用しそう。それに髪型も着物もピッタリ似合っている。後半の出番がほとんどないのが残念。
・市子(米山千陽)華やかな空気をまとった女優さん。日蔭茶屋事件で実際は大杉は瀕死の重傷を負ったので、あの場面をもっと膨らませればぴったりの見せ場になった気がするがこれは演出の問題。違う芝居になっちゃうし。
・紅吉(藤原弥生)場の空気を舞い上がらせるムードメイカー役がぴったり。もっと出番が欲しそうだった。
・保子(岸朱紗)体が弱く病気がちで進んだ考えについて行けない人そのままであった。本当にそういう人かと思ってしまうのだがそんな人が演劇研修所に来るはずもなくこれは完璧な演技なのだ。
・野枝(伊海実紗)終始元気で明るく大役を見事に演じ切った。最後に憲兵に抗議するときの真剣な表情もすこぶる良い。
・島村抱月(松尾諒)メイクが完璧そして演技も完璧だった。
・辻潤(都築亮介)優しすぎる情けない男の雰囲気が良く出ていた。ただし普段の会話調でなくもっと演技らしさを感じたかった。
・荒畑寒村(笹原翔太)堅実な演技ですでにベテラン脇役の味があった。
・奥村博、甘粕大尉(宮津侑生)らいてうの夫で画家の優男と鬼の憲兵って、後で配役表を見て驚く。ミスプリじゃないのかと半信半疑だ。
・大杉栄(安森尚)男女関係においてのクズ人間ぶりが清々しく感じられるほど的確に演じていた。
以上16期生のみ配役表順