実演鑑賞
満足度★★★★★
「た組。」の第七回公演(2015年)の再演。ずっと観たかったので嬉しい。
原作も映画も知らなかったのだが、それが良かった。ある意味、自分の理想の作品。観るチャンスがあったなら、是非観て頂きたい。『博士と彼女のセオリー』なんかを思い出す。
事故で記憶が80分間経つとリセットされてしまう元数学の大学教授、通称“博士”の家政婦に派遣された女性。皆記憶がすぐに初期化されることに付き合い切れず逃げ出してしまうらしい。博士と家政婦の数学だらけの日々。家政婦はシンママで、家で留守番中の10歳の息子を心配した博士は「ここに連れて来なさい。」と告げる。
時間の砂に塗れた砂丘のようなステージが幻想的。上手に腰掛けたギターを爪弾き続けるUNCHAINの谷川正憲氏!この感覚、懐かしい。語り手の近藤隼(じゅん)氏は開演前から舞台をうろついていて和やか。背後には巨大な窓ガラスが斜めに突き刺さっている。そこに何やら数式を書き込んだり。
家政婦役、ひたすらハンバーグを捏ねる安藤聖さんが美しい。随分綺麗な女優をキャスティングしたな、と感心した。こまつ座の『貧乏物語』が素晴らしかったが、同一人物とは気付かなかった。何処の誰の役でもこなせるであろうキャパの大きさ。
博士役の串田和美(かずよし)氏、80歳!名優が演じている感じが一切しない。本当にそんな感じの人なんだろうな、と思わせた。(数式をよく聴くと結構適当だったりするが、その感じこそ正解だと納得させる役作り)。
息子、ルート役の元乃木坂46、井上小百合さん。絶妙なキャスティング。泣かせてくれる。
博士の義理の姉役の増子倭文江さんはヤバイ。数シーンの出番ながら、強烈なインパクト。市川崑の金田一耕助シリーズ、真犯人役の大女優を思わせる貫禄。事故で足を引き摺る後遺症。登場で空気が変わる。
いろいろな役を受け持つ草光純太氏も軽妙なフットワーク。
数学の世界、崇高で底知れぬ数字の魅力に人生を捧げた博士。彼との生活の中、家政婦と息子も数字の面白さに取り憑かれていく。数字は人類の誕生前から存在していた宇宙の法則。モノリスのように人類はそこに秘められた謎を、手探りで何千年も掛けて解いてきた。宇宙からの巨大ななぞなぞ。
優しさと正しさに全力な人達。出来る限りシンプルに人生を解いていく。