満足度★★★★
ダイナミック
トルストイの小説を原作にしたバレエ作品。ボリス・エイフマンの振付で2005年に発表されたもの。
「アンナ・カレーニナ」はずいぶん昔、ソ連の映画を見たっきりで、内容もよく覚えていなかったので、開演前にプログラムを買ってあらすじに目を通しておいた。要するに、ヒロインが夫と幼い息子を捨てて、不倫相手のもとへ走るが、一時の情熱が過ぎるとしだいに後悔が湧いてきて、それによって精神に異常をきたして自殺するという話らしい。
主要な登場人物は妻、夫、愛人の3人。彼らのソロ、デュオ、トリオによる踊りによってドラマが進行する。一方、背景となる群集の場面もそれぞれが群舞になっていて、3人のドラマの背後や合間に踊って雰囲気を盛り上げた。
ヒロインのアンナ役はニーナ・ズミエヴェッツ。大柄で骨太。バレリーナにしては肉付きが良く、一見重そうな印象だが、体は非常にやわらかくて、テンポのいいエイフマンの振付を的確にこなしていく。多彩なリフトが素人目にはずいぶんむずかしそうに見えるのだが、相手役の男性ダンサー2人(夫:セルゲイ・ヴォロブーエフ、愛人:オレグ・ガブィシェフ)との息もぴったりで、上げるほうも上げられるほうも楽々とやっているように見えた。
音楽はチャイコフスキーの曲を中心に、場面ごとにちがう曲を流していた。ナマのオーケストラはなく、音は録音。
女1人男2人の三角関係という設定がもともと非常にドラマチックなので、おおまかなストーリーさえ頭に入れておけば、今がどういう状況設定かということはダンサーの踊りだけで十分に伝わってくる。初めて見るボリス・エイフマンの振付が面白いし、群舞を含めたダンサーの動きも良かったので、期待せずに見始めたわりには最後まで飽きずに引き込まれた。
プログラムによると、ボリス・エイフマンの振付作品にはドストエフスキーの「白痴」や「カラマーゾフの兄弟」、チェーホフの「かもめ」などロシア文学を原作にしたものがいくつかある。面白いかどうかはわからないけど、いったいどんなふうにバレエ化しているのかという興味だけでとりあえず見てみたくなる。