止まらずの国 公演情報 ガレキの太鼓「止まらずの国」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    会話もいいし物語も面白い、素晴らしい舞台
    まず舞台にライトが点き、セットを目にして、とてもわくわくした。
    サンモールスタジオで、これだけの本格的なセットは見たことなかったような気がする。

    そして、そのセットで、わくわく感をまったく裏切らない物語と役者さんたちの演技と演出で、とても素晴らしい舞台が繰り広げられたのだ。

    わずか100分なのに、この満足感。

    ネタバレBOX

    セットを見たときから、青年団の『冒険王』を彷彿とさせたのだが、その影かちらついたのは、ほんの最初のところだけだった。
    あちらが、あるラインを越えてしまった人(大人というか)たちの普通の話であるとすれば、こちらは、ごくごく普通の人たちの話だ。

    つまり、この物語に登場する旅人としての軸足が、なんとなく故郷の日本にある(正確には1人の日本人を除いて)ような、ふらつきのあるような、普通の人たちなのだ。迷いがあり、それが出てしまうところが普通なのだ。共感できるというか。
    もちろんあちらの話の登場人物にも、心のふらつきはあるのだが。

    あちらには達観したような、あきらめにも似た様子が、「うらやましさ」さえ醸し出していたが、こちらにはそれがない。もし自分がそういう旅に出たら、こっちの人たちのようになるのだろうなぁという共感がある。私はこんな旅に出ない人間なのだというような、とでも言うか、そんな共感。
    ま、2つを比べてもしょうがないけど、ほら、設定が似てるから。

    この物語は、どこかイスラム圏にある王国の安宿が舞台。
    この安宿を出て学校に寝泊まりする女のために、最近旅を始めた男がお別れパーティをしようと考えている。
    同じ部屋には、旅慣れた2人の男がいる。1人は、もはや日本を帰る場所とは思わない、旅行者の間で伝説となっている、すべてを達観したような男で、もう1人は、籍は入れてないものの、かつて旅行仲間だった女性が日本に出産のため帰国していて、そこへ自分も帰ろうとしている。

    そんな中に、男女が案内されて来る。女は韓国人で、男は日本人。ふたりはカップルなのだが、男は、旅行に出たものの、自分には最後まで合わず、自分だけで何かを成し遂げられなかったことを悔やみ、結婚式に出席するという理由で帰国しようとしていて、もう旅には出ないだろうと思っている。
    さらに、初めての海外旅行に来て、お金をだまし取られてしまい、困って安宿に転がり込んできた女がそこに加わる。

    彼らの会話から、それぞれの状況が明らかになっていく。
    そんな中、外の様子が急変する。戦車や兵士が現れ、宿の持ち主たちや2階の旅行者の姿が見えなくなる。さらに銃声、爆発音らしき音が聞こえ始め、それが近づいてくるのだ。彼らの不安と焦りが高まっていく・・・。

    とにかく、物語の展開と、その語り口が巧妙だ、旅行初心者が2人というところがうまい。初心者という設定は、ともすると観客に舞台上の設定を説明するためだけの役割を与えられるのだが、その役割もありつつの、設定の違う男女2人なので、切り口が異なるのだ。
    さらに彼らの呑気さと、不安が見事に他の登場人物を揺さぶっていく。

    また、各登場人物の設定も巧みで、確かにちょっとできすぎのメンバー構成だけど、うまいと思う。そけぞれが物語を内包していて、それが会話でうまく表現されていく様もうまいと思うのだ。

    驚いたのは、現地の男女の登場や韓国人の女性の登場だ。
    カタコトの英語という設定もあるし、なにより、物語に広がりを与えていたような気がする。
    彼らとの民族や国籍の違いによるギャップまで表現できていれば、最高だったのだが、そこまで盛り込むと逆に全体がぼけてしまったのかもしれない。

    とにかく、どの登場人物のキャラクターがくっきりしていてわかりやすい。
    しかも、どの役者もそのキャラクターをぶれずにきちんと表現していて、その人になりきっているように感じた。

    特に、かおさん(鈴木智香子)の醸し出すベテランぶりのうまさには絶品であったし、見ているこちらがイライラしてしまうような、海外旅行が初めてのともか(通地優子)の存在は見事だと思った。
    鈴木智香子さんはほかの舞台でも拝見したことがあったが、うま人だなあと改めて思った。

    セットも小道具も凝っていて、言うことないし、スムーズに役者が動き(出入りし)、舞台を広く使い、奥行きや幅までも想像させるような演出も巧みだと思った。
    さらに、物語が急展開していく中で、全員が一気に不安に陥るのではなく、それが徐々に伝播していき、その度合いの違いが表現されていく様は素晴らしい。

    一体どうなるのか、と興味を引っ張っていく物語の展開と、それが行き着く先のラストもよかった。
    ・・・ちよっとした矛盾というかご都合主義はあるのだが、それには目をつぶろう(笑)。

    本当に素晴らしい舞台だったと思う。
    「ガレキの太鼓」は、私にとって、これから要チェックの劇団になった。




    ちなみに私の『冒険王』の「観てきた」です。
    http://stage.corich.jp/watch_done_detail.php?watch_id=30362

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    2010/03/26 06:00

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