実演鑑賞
満足度★★★★
完全に気が狂っている。途轍もない試みに唖然。整形し15年間逃亡し続けた福田和子の逃走劇をこうトランスレーションする発想が有り得ない。筒井康隆に観せて感想を聞きたい。
ステージ上には古い和室の床の間、天井には鉄パイプで足場が組まれている。そこに次々とやって来る7人の福田和子。東映の女番長(スケバン)ものや女囚もののスタンス。前髪ウィッグで変装する7人。天井で蠢くのはアインシュタイン。そこに踏み込んでくるのはニュートン。
7人の福田和子を追う刑事ニュートンと刑事アインシュタインの構図。「万有引力の法則」と「相対性理論」というこの世の掟から福田和子はあの手この手で逃げ続ける。ドアには鍵、最早天井から逃げるしかない!福田和子達はそれぞれ協力し合って天井によじ登る。ブルーシートにくるまれた死体、それすらも8人目の福田和子と化していく。(主催の下島礼紗さん)。キョンシーっぽい遣り取り。
アインシュタイン役の伊藤勇太氏の身体能力はジャッキー・チェンやバスター・キートンを彷彿とさせる。
ニュートン役の鹿野祥平氏は飯伏幸太ばりの鍛え抜かれた肉体美。
うんていに懸垂、鉄棒競技のキツさ。自衛隊のレンジャー部隊の合宿のような地獄絵図。それをうら若き女性達が必死にこなしている。観ているだけでへとへとだ。全身の筋肉が悲鳴を上げる。「THE ガンバルマン」を見ているよう。スカートの見せパンから伸びた痣だらけの二本の脚。工夫を凝らしたアクロバティックな運動。助けを借りて何とか天井裏に這い上がる。ポールダンスやエアリアルダンス風味もあり。
林あさ美の『ジパング』が印象的に歌われる。矢鱈巧い。
「すみ焼き木こりの勘太郎が庄屋の娘に恋をした
生まれて初めて恋をした 悲しい恋とは知らないで」
途中、水中で重力を失くしたりする描写も。時折鏡に浮かぶ福田和子の顔。バンバンの「『いちご白書』をもう一度」が感傷的に流れる。
木頃あかねさんや浅川奏瑛さんが印象的。まあ全員にリスペクトだろう。
刑事と福田和子、よじ登って落ちて、またよじ登って落ちる。ちょっとネタ切れの停滞もあるがそれもよし。
前作の『セウォル』を予約していたのに諸事情で観られなかった。こうなってみると滅茶苦茶観たかった。
「ケダゴロ」という泥くさい響きを持つ言葉は鹿児島弁で、土に転がった、いずれ肥やしとなる獣の糞を意味する。(「創造都市横浜」の記事から引用)。
because cuz cause(原因があるから)。because kazcause(和子達だから)。
まだ見ぬ未知に好奇心が疼くならば絶対に観ておいた方が良い。観客の期待値は高く、熱気に充ちていた。