実演鑑賞
満足度★★★
桟敷童子版「どん底」。名無しの婆(鈴木めぐみ)が、知恵遅れの青年に「あんたにも勉強できる学校が、どこかに必ずある」と語るあたりで、「これはルカだ!」とわかった。宿の女主人(藤吉久美子)が、若い男(三村晃弘)に、「夫を殺しておくれ」と迫るところや、女主人が妹を男のことでいびるところなど「損底」を踏まえている。
ただ似ているのはそこまで。乞食商会を立ち上げるやくざの一家、用心棒の退役軍人たち、宿とやくざにかくまってもらう過激派青年たち、というのはオリジナル。過激派の女性・葦乃(板垣桃子)が炭坑の事故の後遺症で、次第に体が不自由になっていく様は、痛々しかった。酔っぱらいの貧乏医者を演じた客演の佐藤誓は、桟敷童子の熱血集団の中では、きわだってクールに見える。佐藤は特別な演技は何もしていないのに(板垣桃子とは対照的)、いるだけで存在感があるのはさすがである。ただ、全体としては今一つ。最近はラストで魅せる美術のために、演技できる奥行きを狭く使っているのが窮屈に感じる。