わが町しんゆり 公演情報 川崎市アートセンター「わが町しんゆり」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    舞台は奥に二つのリヴィングルーム、その手前に二つの居間に区切られる。奥ではワイルダーの描いた架空の町グローヴァーズ・コーナーズの、1901年から06年の二家族の話が演じられ、手前では新百合ヶ丘の1929年から38年ごろの二家族を演じる。筋はワイルダーの原作に従うが、アメリカと日本の家族は節々でバトンタッチして、一つの場面はどちらかで演じられ、同じ話を重ねることはない。(のりしろのように互いに重ねる部分が多少はあるけど)

    3,4年前に原作を読んだが、隣家の子どもたちが結婚するようになるという以外、忘れていた。前半は今一つだが、休憩後の婚礼と、エミリー(えみこ)死後の墓場の場面で、主題が立ちあがってきて、よくなった。
    結婚式前の「結婚はいいものだ」と疑いなく語る、古き良き結婚賛歌が、今だからこそ新鮮に響く。いまは通用しないかもしれないが、これは過渡期の模索。再び男女の結婚が素直に祝われる日が来ることを願いたい。エミリーとジョージが思いを確認する喫茶店のシーンがよかった。

    そして3幕。二人目のお産で死んだエミリー(恵美子)が、12歳の頃の幸せな家庭を見つめなおし、つらくなってやめてしまう。「生きている人は何もわかっていないのね」と。死者の目から人生のかけがえのなさを再認識させるのは、井上ひさしの「ムサシ」のようだ。生の幸せをともに味わうことのできない死者の孤独、悲しみが胸に迫る場面だった。

    ジョージの家は医者、エミリーの家ははっきりしないが、穏やかな市民の生活。貧困や生活苦は視野の外においた芝居を、原作の初演時、左翼評論家は「醜悪」と批判した。ただ「しんゆり」版では、タブノキの精を登場させて、見事な枝ぶりを空襲の目標になるからと切ってしまった狂気、戦争による空襲(5月24日か25日、10数件の被害と小さいが)を語らせる。

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    2022/12/04 10:54

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