ライカムで待っとく【11月27日~29日公演中止】 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「ライカムで待っとく【11月27日~29日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    沖縄返還五十周年の年も終わろうとしているが、もっと大々的に全国的なアレがあっても良いところ、ちむどんでお茶を濁すのがせいぜいなのが日本の実情。
    そんな中、芝居の方はと言うと・・KAATが企画した今作と、昨年の「HANA-1970、コザが燃えた日-」の他は目立った舞台は見当らないとは言え、この二作は出色であった(チョコレートケーキの「ガマ」は未見)。
    初めて見る作者名であるが、若い彼に脚本を依頼した決め手は舞台の実績ではなく、ラジオドラマだという。
    現実を変える術を知らない日本人は、沖縄の「犠牲」の正当化に恥しげもなく躍起になる(失礼だが)レベルの低いネット投稿者を除けば、「見ない」事でやり過ごすか、心を痛めてながらも日常に飲まれるか、重い腰を上げて何かやろうとするか、どちらにしても無力感と無縁でいられない。だから沖縄イシューは今は不人気な案件だ。
    だがそういう問題にこそ演劇は力を持ちたい、誤解を恐れずに言えば理不尽な現実こそ恰好の題材ではないか・・と思う。もっともドラマに「共感」を獲得するには、観る者の根底にある共通了解、想像力に頼んだ納得を引き出さねばならない。沖縄の課題は掬い出せる泡状の状態をとうに過ぎた灰汁のように汁に溶け込んで容易に分解できない。沖縄人の中にも、反基地と騒ぐ人たちへの疎ましさを吐露し、現状を認めた上で自分の進路を決めようとする(若者ならば普通な事であるが)層もあり、社会に馴染んだ「灰汁」(悪)は基地の弊害も日常の(我慢の)範疇となる・・。
    沖縄在住の若い作家はそうした現状との距離感も織り交ぜ、本土人のご機嫌を窺いながら(「共感」の部分から物語へと誘いながら)、沖縄と本土との見えない断絶のありかへと、果敢に挑む。
    この戯曲とこれを書いた一人の沖縄青年、彼にこの戯曲を書かせた本企画に喝采を送る。

    ネタバレBOX

    田中麻衣子は新国立劇場で経験を積んで来た若手演出家だが、不器用に思える手付きが持ち味(褒め言葉になっていないが..いや褒めてはいない)。渋い出来の舞台が多いが大胆さがある。今舞台でもキャスティング(または人物造形)、処理の仕方がどうもな..とか色々あったが(作品をべた褒めしておいて演出に難癖つけるのはこき下ろしに等しいか..いやこき下ろしてるんだが)、効を奏したアイデアもあり、戯曲の世界を届けるという点において最終的には成功したと言える。
    国広和毅の音楽も相変わらず「目立たず」、芝居に寄り添っていた。

    厳然と存在する差別構造を可視化する事・・この事を抜きにして沖縄を描く(本土人が観るものとして)意味は殆どない、と私は思う。ただし芝居、ドラマにはそれを人間感情を伴い、共感と感動をもって伝える事の可能性がある。今作は日本の日常をぶち壊す要素が満載だが、終盤に畳みかけるそうした現実と、沖縄史の片鱗たちが「出て来ない」芝居などに意味がない・・作者もそう感じ、疎ましい現実をもう一度掘り返しながら「本土人に届けるべき物語」を紡いでくれたのではないかと想像した。
    差別する側が差別を「認める」には壁がある。残念ながら日本は総体としてその度量がない。外圧でもなければ己を変えられないのが日本だ。殊に日本はアジア侵略の事実を過小評価、曖昧化(歴史評価は後世に委ねるべきだとか何とか)して来た負の実績がある。「植民地化してインフラ整備してやった恩を仇にしやがって」との韓国に対する言辞は、そのまま沖縄に対しても発されておかしくない。つまり本土と沖縄には明確な境界があり(戦前同じ日本人だと言っても植民地出身者との間に明確な差があったように)、本土側は常に正しく「恩を与える側」として自らは痛みを覚えない安全圏にいる。これこそが差別の内実。そしてその根底にはそれが「有利」だと信じている現状認識がある。なぜか日本は米軍が駐留している方が日本にとって「有利」だと考えている。その大元を探ると、官僚自体がそうだし日本会議やその背後にあって動きを生み出す主体の存在が想定される。そして「上」に行けば国政において実権を持つ者がタマを握られている可能性もある。表面上は日本が「自ら決定している」売国的な法案や決定の数々が、そのように誘導したい米国に「自ら寄り添って」通されているのでなく、実際に脅し上げられている可能性も僅かながら過ぎる。自死した赤木氏に安倍昭恵関連が疑われる文書の改竄を指示したと言う佐川氏も、「自分が指示した」との証言を置き土産に一切表に姿を見せないが、本当は誰に指示された、と証言をしたら「誰かの命はない」と脅し上げられているのかも。彼の「犠牲」に日本人の美徳を見る向きも恐らくあるんだろうが、実態は「脅されている」から「そうしている」・・そんな泥塗れな政界にいれば鋭く切り込む野党の質問にも平然としていられる。心でこう言っている・・「現実はそう甘いもんじゃない」「こっちの席に座ってみれば、自分がロボットにしかなれない事が身に沁みるだろうよ」。いやいや、ただただ怠惰なだけかも知れん。(余談が過ぎた)

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    2022/12/04 08:56

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