服が腐る-2022AW- 公演情報 人間嫌い「服が腐る-2022AW-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    タイトルは「服が腐る」だが、その服を着た女優8人は腐るどころか輝いていた。出演女優は8人〈別に客演男優1人〉だが、主宰・岩井美菜子女史(作・演出)が前説を行い、客として そのまま舞台となっているアパレルショップから出ていくところから物語は始まる。公演は、多くの服に着替え、まるでファッションショーを観ているかのような華やかな世界であるが、その服には消費ならぬ賞味期限があるという。その賞味こそが流行で、それに敏感な乙女心を描いた物語。

    舞台美術がアパレルショップを再現したような見事な作り込み。特徴的なのが客席との間に通路のようなスペース、そこをファッションショーで見かけるランウェイに見立てウォーキングするよう。その颯爽とした歩きとポージングは見事な演出である。一見 華やかな世界を想起させるが、その舞台裏であるショップ店員の喜びや遣り甲斐、一方 爆買いに観る心の寂しさ悲しさをしっかり描く。その両面こそ人間そのものであり、物語に込められた肝のように思う。

    服が腐ったら捨てればいいが、人が腐っても捨てることは出来ない。クローゼットの中は着飾る洋服でいっぱい、が その中を見られるのは (人の)裸を見られるようで恥ずかしい。洋服とともにある記憶はその人の人生そのもの、を思わせるような劇中の台詞は実に印象的であった。やはり「劇団人間嫌い」は、劇団名とは真逆の人間観察に優れている。
    (上演時間1時間45分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、だんだん高くなる階段状の作り、マネキンや多くのハンガーラックに掛けられた洋服、中段には商品置台がある。そして最上部に姿見や試着室(カ-テン)がある。上手にカウンター、客席側に別場所を表すテーブルと椅子2脚が置かれている。全体的にスタイリッシュな印象である。

    物語は、アパレルショップで働く人々の日常、そして芸能界(深夜TV)に出演している女性とその友達の起業(ファッションブランド)が緩く繋がるような展開である。
    ショップ店員の衣織(川勾みちサン)が、服の流行り廃りを臭いで嗅ぎ分ける特殊能力がある。店頭への品揃えの役に立っている。オーナー桐子(小山ごろーサン)、社員・せいか(藤真廉サン)、バイトきぬ(田村理子サン)そして先の嗅ぎ分け店員が接客や広告デザイナーとの遣り取りで、洋服とはファッションとは を考える。バイトが何気に覗いてしまった顧客・シホ(芦田千織サン)の生活や思いを描くことで、物語に広がりと深みを増す上手さ。

    一方、芸能界で生きる美玲(武田紗保サン)とその友達まりな(村上桜佳サン)のファッションに対する考え方の違い。同時にそれは歩んできた道であり、生き方の違いでもある。久しぶりに会った懐かしさ、同時に洋服に関わる経歴を生かした夢(起業)へ.…。流行の最先端で活躍したい 美玲とパタンナーとして作った服に愛着を持つ まりな、そんな2人の考え方の違いに「服」に対する拘りを落とし込む。さらに流行に振り回されないミニマリスト・藍(高坂美羽サン)を登場させ、ある種の熱に浮かされないといった女性の考え方。そこに人それぞれの考え方、違う感性を描く。この多様性こそ公演のテーマであろう。
    なお、せいか が彼氏と別れた理由、”ときめき”がなくなったということだが、その予兆というか伏線はあったのだろうか。「服」は飽きれば捨てられるが、恋人=人も簡単に捨てられるのだろうか?…気になるところ。

    平日は同系色のスーツにYシャツ、休日も毎週変わらない服を着ている自分には、何が流行っているのか分からないし、拘りもない。しかし、怒られるかもしれないが たかが「服」されど「服」である。服に興味を持つ人もいれば、無頓着な人もいる。身近なテーマというか物で、人間観察をしたこの公演、観応があった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/26 16:30

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