ドン・キホーテ 公演情報 谷桃子バレエ団「ドン・キホーテ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    4回目のドンキ
    「ドン・キホーテ」もバレエの人気演目の一つだが、私自身はあまり見ていない。3年前に3つの舞台を見たっきり。グルジア国立バレエでは主演がニーナ・アナニアシヴィリ、新国立劇場バレエではスヴェトラーナ・ザハロワ、東京バレエ団では小出領子。いずれもメインのダンサーを目当てに見て、その点では文句もなかったのだが、作品的にはあまり面白いと感じなかった。
    ところが今回は、これが主役デビューだという林麻衣子や、相手役の齊藤拓の踊りも悪くはないのだが、なんといっても出演者たち全員のマイムを中心にした演技がすばらしくて、芝居でヘタな演技を見るときのようなストレスがまったくないのがよかった。バレエ公演を見て私(演劇ファン)なんかが感じる不満というのは、踊りの技術面とかちょっとしたミスよりも、芝居の下手さというのがけっこう大きいのだ。

    ネタバレBOX

    プロローグではドン・キホーテ(枡竹眞也)とサンチョ・パンサ(岩上純)が旅に出る経緯が短い場面で描かれる。ここからすでにマイムによる演技の良さが伝わってきた。私が座った席からは顔の表情などはよくわからなかったのだが、それでも二人の動きからは間のいい会話のやりとりがちゃんと感じられた。

    第1幕の広場と第2幕の居酒屋の場面には、それぞれに群集や店の客として脇に大勢の人物が登場する。ここでもそれぞれがちゃんと別々の役として自然にふるまっていて、一つのきっかけで全員がいっせいに同じところを見るというような愚行は起こさなかった。ヒロインのキトリが登場するときにもスター登場という大袈裟な感じではなく、最初は街娘の一人という印象だったのが、ストーリーとダンスの展開にしたがって徐々にその存在が重要になっていくという形だし。また彼女と仲のいい二人の友人(瀬田統子、山本里香)という役があり、実際この3人によるマイムのやりとりからは、仲良し3人娘という関係がしっかりと伝わってきた。

    舞台中央の踊りはそっちのけで、べつに脇の演技ばかりを見ていたわけではないのだが、踊りさえ見せれば脇は適当で、というのもどうかと思うので。

    広場の場面では闘牛士たちの踊りというのがあって、そこでの中心的な存在がエスパーダという役。演じたのは三木雄馬。同じラテン系の男でも齊藤の演じるバジルがお調子者の軽さを備えているのに対して、エスパーダのほうは闘牛士だけに気位の高さが感じられる。配役的にもぴったりで、なかなかサマになっていた。
    金持ち貴族でキトリに懸想するガマーシュというモテない男を演じる赤城圭も控えめな良い演技だった。
    そういえば、広場にドン・キホーテが現われるとき、乗っている馬が本物だったので、暴れはしないかとハラハラした。

    第2幕の第1場、居酒屋の場面で印象に残るのは、ジプシー女を演じた日原永美子の踊り。この人、バレエ団の創作公演では振付作品をいくつか発表していて、特に「タンゴジブル」が非常に面白い作品だったこともあり、どちらかというとダンスよりも振付のほうで注目していたのだが、この日の踊りは野性味たっぷりでとてもよかった。たぶんまともに踊るのを見たのはこれが初めてかもしれない。
    それと彼女が登場するちょっと前の、ギターを抱えた二人の女が出てくる場面もなかなか印象的だった。

    第2幕の第2場では有名な風車が出てくる。ドン・キホーテは風車をドラゴンだと思って向かっていくのだということを示すために、天井部分から実際にドラゴンが姿を見せるのがわかりやすくて親切な演出。この風車や広場の背景などは妹尾河童が美術を担当していて、これもなかなかよかった。

    第2幕の第3場は、風車との戦いで意識を失ったドン・キホーテが見る夢の場面。白いチュチュをつけた群舞のダンサーが登場するのはバレエではいわばお約束のようなもの。ドン・キホーテは憧れの女性ドルシネアに会うべく旅立ったという設定になっているので、彼はその夢の中で彼女に出会う。演じるのはキトリと同様に主演の林。もう一つの重要な踊りの役として、森の女王を演じているのが佐々木和葉。彼女は去年「ジゼル」を演じたのを見ているが、そのときとはずいぶん雰囲気が違う。なにしろこちらは女王の役だから。森には白い妖精がたくさんいて、小柄な愛の妖精を演じるのが伊藤さよ子。頭の髪型がなんとなく雷様の子供みたいに思えるのが可笑しい。彼女よりもさらに小さい森のニンフたちを数人の子役が演じていたが、なかなかしっかりした可愛い動きだったので、これくらいなら子供が出てきても許せるかなと思う。

    第3幕は貴族の館。どういう経緯でこの場面になるのかはプログラムの粗筋をみないとわからなかったが、要するに終幕なのでダンスショーで盛り上げるということだろう。これもいってみればバレエのお約束。主役のパ・ド・ドゥでは、ヒロインの林が片脚で立って、しっかりと何度も回転していた。遠目にではあるが、活発なキトリ役の雰囲気に彼女の持ち味はピッタリな感じがした。

    「ドン・キホーテ」というバレエが、作品として初めて面白いと感じられたのが、なによりも今回の収穫。6月の次回公演「リゼット」も楽しみになってきた。

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    2010/01/24 14:33

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