満足度★★★★★
何よりも圧倒的な阪神淡路大震災の事実の重みを、日常のユーモアに重ねて観客に伝え続ける。
今年の1月17日で阪神淡路大震災から15年、その前日に観劇。
私の初「前進座劇場」、場内の赤い提灯が目立ちます。
作品は、劇団も出演者も作品も、すべてにおいて全く
何の予備知識もなくチラシのコピーに惹かれての観賞です。
神戸湊山消防署に働く消防・救急・救助に携わる隊員たちの
活躍を阪神淡路大震災の出来事を交えて描く作品。
とにかく脚本・演出・主演の宇田学さんが、神戸市の
消防・救助・救急隊や被災された人たち100人以上に
3カ月にわたって取材した内容に基づいて書かれた話の
重みが凄い。
(宇田さんも「消防士になろうと調べた」程にのめりこんだ)
消防署の日常に続き、小隊長から若い隊員に語られる
阪神淡路大震災の記憶。
15年前の1月15日突如発生した災害に、無線も使えず
何も情報がないまま救助活動を始める消防署の隊員たち。
鉄骨が数本置かれただけのシンプルな舞台に、
光と煙の演出だけで震災の現場が次々に再現されます。
漠然と考えていた震災というものについて、
1つ1つ提示される具体的に演じて提示される悲劇に、
圧倒されます。
あまりの要救助者の数に「呼んで返事がない人は助けない」
という本部の方針に、人殺し呼ばわりまでされる隊員たち。
それ以外は周辺住民自身が協力して助けるしかない現実。
実際に助けられる人は、ごく一部の人に過ぎないこと。
実際の話の迫力と重さは凄い。
また、当然ながらそれを毎公演ごとに再現し、演じる
という演劇としての意味なども考えます。
救助隊の小隊長高橋を演じた植村好宏さんは、
隊での普段の生活ではユーモラスに、
しかし、震災での救助の体験者で、
若い隊員を集めてその経験を話す重要な役。
まさに流暢なセリフと仕草がまさに救助のプロらしく、
安定感がある芝居が素晴らしい。
他に特に目立つのは、袋小路林檎さん。
コメディレリーフで、重い話を見やすくする重要な役目。
なにしろ白塗りに真っ赤な林檎ほっぺの濃い化粧で、
登場シーンはほぼすべてが彼女のギャグというか
コントになっていて、とにかくおかしい。
この芝居の役名を芸名に変えたのもうなずける適役で、
悲惨な事実と相反して、茶化さない(失礼にならない?)
ぎりぎりのところでバランスをとってます。