ラビットホール 公演情報 劇団昴「ラビットホール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    傑作。
    物語の悲痛さは、説明(あらすじ)から何となく(頭では)理解できるが、それを舞台でどう表現するのか。それも海外戯曲(翻訳)を…そんなことは杞憂であった。

    舞台美術は、本当にその空間で暮らしているかのような精緻な造りであり、照明や音響といった舞台技術も上手い。しかし何といっても役者陣の熱演が凄い!台詞というか言葉に込められた真意、それを激情・激白する姿に感動する。瞬時に反応した台詞の応酬は、本当にそう思っているかのような、ゆずれない芯のある言葉となっている。家族という緊密な関係、そこに亡くなった子への想いを繋ぐ緊張した状況、共感必至の現代劇である。
    (上演時間2時間15分 途中休憩含む)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、円を描くような丸みを帯びたフローリング風の舞台。入口側からダイニング・キッチン、反対側に回り込むようにしてリビングルーム、ソファや本棚がある。舞台中央の客席側に丸テーブル、そして玩具・絵本・ぬいぐるみが置かれている。同一空間に亡くなった子供部屋を作ることによって 子を思う悲しみを漂わせる。精緻な造作だけではなく、そこに込めた想(重)いが切々に伝わる。

    ニューヨークに住むベッカ(あんどうさくらサン)とハウイー(岩田翼サン)。1人息子(4歳)のダニーが事故死して8か月経つ。同じ喪失感を抱いているはずだが、ベッカは子供の遺した服や玩具 絵本を捨て続け、ハウイーは思い出を残そうとする。悲しみを感じる場所が違うかのように衝突する2人の言葉は重苦しい。自由奔放な妹イジ―(坂井亜由美サン)は妊娠し、11年前に息子を亡くした母ナット(要田禎子サン)は今も思い出に浸る。そんな2人の会話も交え、ベッカとハウイーは ますます亡くなった子を思う悲しみと寂しさを増していく。かみ合わない嘆きと悲しみを抱え苦しむ二人。そんな時、ダニーを轢いた少年ジェイソン(町屋圭祐サン)からの手紙が届くが…。

    米国戯曲を翻訳劇としてどう表現するか。日本語の語感が、心理劇としての色濃い内容の真意をどこまで伝えることが出来るのか。頻繁に使われる「OK」は、短い単語であるが、そこには肯定であり、これ以上の会話を拒絶するような意思表示を表す。日本語の中に英語を発する違和感、そこに たんなる感情とは別の意図を感じる。事件ではない、やむを得ない出来事だったとはいえ、誰かをそして何かを責めたくなる感情は抑えられない。その表し難い感情-心の想いを的確に表現した英単語で、上手い翻訳?だと思う。

    登場人物は5人。それぞれが負っている、もしくは負うことになる想いが、一語一句に込められている。同時に言葉に表せない心の内を、表情や仕草で体現する。子供服をたたむ、子のビデオテープを観る、玩具等をゴミ袋へ、何気ない光景のようだが、母であり父である想いが伝わる見事な演技である。勿論、妊娠したイジーの腹部、ナットは孫のジミーと息子を知らず知らず重ねて話す。そんなリアルさスキの無さが巧い。

    ジェイソンとベッカの会話。自分なら息子を轢いた少年と会うだろうか。そんなことを考えた。
    彼が書いた手紙ー小説、その仮(空)想の物語に入り込む。宇宙は無限、そこに存在すると信じているパラレルワールドは、悲しい世界(だけ)ではない。しかし 今いる世界では、子供の物を処分しても、けっして子がいたという事実は消せない。ミラーボールの回転によって星空のような世界が出現する、ベッカは その中をグルッと回って何かを感じる。今後、ベッカとハウイーがどのような生き方をするのか気になってしょうがない。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/02 17:48

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