満足度★★★★
翻案の妙。さすが、岩松了。
原作の世界をそのまま使わず、在米邦人のコミューンに
翻案したのが興味深かった。
自分が最初に宝塚での「華麗なるギャツビー」舞台化に
求めたのも結局こういう手法だったと思う。
小池修一郎が菊田一夫賞を受賞した直後で“第二の菊田
一夫”みたいに注目されていた時期に「ギャツビー」を
手がけたので、菊田の得意とする日本的な翻案を期待
したのだが、結果としてそうはならなかった。
岩松了の「マレーヒルの幻影」のほうが、むしろ菊田の手法に近い。
菊田はヨーロッパ旅行中に新聞のわずか数行の地元の結婚ニュース
に興味を持ち、舞台設定はそのままに、ハッピーエンドの記事をまったく違う悲恋物に作り変え、名作「霧深きエルベの辺り」を生んだ。
舞台や登場人物はヨーロッパだが、うまく日本人の感覚にマッチ
させた話になっていたのだ。
映画を観た世代の自分にはやはり、ロバート・レッドフォード
とミア・ファローのイメージが強く、原作通りなぞると比較して
違和感を感じてしまっただろう。
ヒロイン三枝子がデージー単独ではなく、作者の妻ゼルダを重ねて
いる点も、原作の愛読者には嬉しい。