消滅寸前 (あるいは逃げ出すネズミ) 公演情報 ワンツーワークス「消滅寸前 (あるいは逃げ出すネズミ)」の観てきた!クチコミとコメント

  • 映像鑑賞

    満足度★★★★

    舞台セットは、難破船の甲板やマストを壁や柱にしたよう。村の右往左往と、船の航海・漂流を芝居の場面でもだぶらせながら、2022年10月の「採決」から始まる。人口1000人余りの過疎の村の「消滅」か「存続」か。自治会長(奥村洋治)が、集落の「絆の里」委員会で採決をとると、全員が、「消滅」に挙手。ここであれッとずっこけるわけだが、自治会長が「覚悟が大事だ」と、明日、再度採決をとるという。「会長はどっちなんだ!」と委員たちが突き上げれば「私は断固「消滅」です」とまたずっこける。意外な幕開けに興味をそそられる。

    話は2010年の「出帆(または放置)」にさかのぼる。委員会を立ち上げ、空き家のリフォーム、40歳以下の移住者への支援金50万円etcの、人口増加策のあれこれをやってきた。それでも委員の中からも離村者が出る現実、学者の傍観者的推計等々、なかなか出口は見えない。委員同士でも、今度引っ越しするのはあなた?、いやあっちの人と噂しあう。そして冒頭に戻り、翌日の再採決。そこまでの光が見えないフラストレーションを吹き飛ばす、意外な感動が待っていた。

    ネタバレBOX

    村で生まれ育った女性(関谷美香子)がいう。「なぜ生まれ育ったこの土地を離れなければならないのか。体をちぎられるような思いだ」。すると、数年前から村にいる女性(みょんふぁ)が「生まれたところでなければ故郷でないの?」と問い返す。「私は宮城に生まれ、大阪に移り、そしてここにきた。だけど、私にとっては、今はここが故郷」と。この問い返しは考えさせられる。生まれ育った場所に特権的(感傷的)にしがみつくのでなく、今住む人、今いる土地はみな平等のはずではないか。

    そしてラスト、自治会長は「消滅」に一票を入れ続ける理由を語る。「来るかどうか、定着するかどうかも分からない人のためにお金を使うより、今いる人のためにお金を使おう。いたんだ家の修繕、荒れた耕作地の整備につかって、今いる人がより良く暮らせるようにした方がいいではないか」「それが「消滅」に予算を使うということだ」。こんな発想が聞けるとは思わなかった。言われてみれば当然のことだ。いつの間にか「人口増加」などと、あてのない未来のことばかりを言って、現在の住民のことを二の次にしていた。「消滅」を覚悟しての逆転の発想だけど、案外、現在の高齢者たちが生き生きと暮せば、それにひかれて移住してくる人もいるだろう。

    会長が「なぜ移住者が定着しないか。それは「愛着」がないからだ」ともいう。シンプルな真理なのに、忘れがちのことだ。

    最初のシーンで村のおばばがたとえ話をする。〈鼠の害に困りはてた男が、思い余って鼠の巣に火を放ち、その結果、家が全部燃えてしまった〉。みんな、何の意味か分からない。でも最後になって、村のおかみさんの一人がその話を思い出して言う。「あれは、一番大事な絆を燃やしてはいけないという意味だったんじゃないの?」。おばばは「あなたがそう思うならそれででいいじゃない」。なかなか心憎いしめくくりであった。

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    2022/10/18 23:38

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