大洗にも星はふるなり 公演情報 ブラボーカンパニー「大洗にも星はふるなり」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    切なさと可笑しさと・・・夏の日の「玉手箱」
    歌舞伎や能楽は例外としても、私、元来は映画でも演劇でも男性
    ばかりのキャストの作品は苦手なほうです。
    しかし、この秋以降、男性だけのキャストのお芝居を観る機会
    が多く、慣れてきました(笑)。
    この作品はブラボーカンパニーの好評だった作品の再演だそう
    ですが、初演は観ていません。舞台版を観ることを決めてから
    好奇心を抑えきれず映画版を先に観ました。
    舞台に先立ち、映画が公開されるといえば「曲がれ!スプーン」が
    そうでした。両者は配給会社や制作方法も違いますが、
    ヨーロッパ企画の公演チケットが残席僅少と聞き、焦って購入する
    際、キノチケの係員に聞くと「やはり映画の宣伝効果はあると
    思いますねぇ」とのことでした。本作の出演者たちのブログを読むと、
    軒並み「チケットまだまだあります!」と必死に呼びかけているよう
    だったので、どうしてヨーロッパ企画みたいに相乗効果を狙った宣伝
    を積極的にしないのかと疑問でした。
    ましてや、福田雄一という劇団主宰・作家は、フジテレビの月9ドラマを
    始めTV、舞台で活躍中、「曲がれ!~」のヒロインが長澤まさみなら、
    「大洗~」のマドンナ役は戸田恵梨香と、どちらも人気女優を起用して
    いるのに、と。
    しかし、本公演を観劇してわかったことですが、「大洗~」の場合、
    映画版の脚本・監督も福田雄一氏自身が手がけていることもあり、
    舞台版とは脚本的にもそんなに大きく違わないのです。
    ですから相乗効果は考えず、別々に観たほうが良いと思いました。
    映画と舞台を両方観るとWキャスト感覚で楽しめます。
    映画はまだ続映中なので、これから初めてこの作品を映画版で
    ご覧になるかたはネタバレを読まれないほうがよろしいか
    と思います。
    また、本公演を観逃したがどんな内容か興味があるというかたは映画版
    をご覧になることをお勧めします。
    ひとことで表現すると、個々の夏の日の想い出を呼び覚まさせてくれる
    「心の玉手箱」のようなお芝居です(夏にはまったく想い出がないと
    いう場合は除いて)。
    あと、楽しみ方としては、他の劇団で上演した場合、だれがどの役に
    合ってるかという「妄想遊び」ができます(けっこう楽しめまし
    た。我が家だけかもしれませんが)。
    あくまで私の個人的な考えですが、CoRichにおけるブラボー
    カンパニーの認知度はまだ低いのかこの公演への関心度も高くなかっ
    たようなので、チケプレを実施していればもっと多くの人に関心を
    持って観てもらえたかなーと思ってちょっと残念です。
    詳しい内容はネタバレで。

    ネタバレBOX

    この芝居にはこの「小屋」が合っていたと思う。劇場に入ると眼前には「海の家」の凝った舞台美術が。よしず張りが丁寧に舞台脇の壁の方にまで貼られていた。同伴者がその1つ1つを読み上げるように説明してくれたものだから、映画とは違う臨場感が胸に迫ってきた(同伴者はこの芝居観るのは初めてですが 笑)。
    舞台は茨城県大洗海岸。物語は夏限定の「海の家」を閉める8月31日から始まり、一挙にクリスマス・イヴへと飛ぶ。
    「海の家」最後の日の感慨にふけったところで灯りがパッと消え、音楽とともにスクリーン映像にタイトルクレジットが出るところも映画と同じで「へぇー」と驚いた。
    「まだ海の家残ってるみたいですよ。もしよかったら、イヴの日にまたそこで会いたいな」
    という「海の家」で一緒に働いたマドンナ的存在、江里子からの手紙をもらった男たちのうち、まず5人が鼻の下を伸ばしてやって来る。
    だが、同じ文面の手紙が全員に送られていたことを知り、いったんはへこむが「どんなに江里子を愛しているか」と一斉に自己主張を始める。そこへ、「海の家」の撤去を命じに弁護士・関口が現れる。男たちは話し合いが解決するまで撤去は待ってくれと頼む。弁護士はしかたなく待機していたが、「重要なのはどんなに相手を愛していたかではなく、どんなに愛されていたかなのだ」と言って「愛されていた様子」を各自に証言させてから、1つ1つの主張の矛盾点について探偵や刑事のごとく指摘し始める(一番の山場はここ)。挙句、「僕も江里子さんが好きだ」と恋人レースに名乗りを上げる。5人のうち猫田は江里子と共に働いていたよしみという娘と付き合っていて、このよしみが江里子とは対照的な超ド級のブスだったため、猫田がその事実を隠し、事実を知った他の4人がそれを隠す行き違いで笑わせる。
    細かいところで面白かったのは、鮫の研究をしている松山の衣裳のカウチン・セーターの編みこみ模様が大小凝った魚。冬のカウチン・セーターで魚柄って見かけないがオリジナルで編んだのかな?よしみから猫田へのケータイの着信音が「タッチ」の主題歌なのは歌手が「岩崎良美」だからだというのは同伴者の指摘だった。
    松山がアメリカへの留学が決まっていると打ち明け、みんなが江里子とのデート権を松山に譲ろうとしたところへ、外で待っていたという林が現れ、脳腫瘍で命が危ないとの告白にみんなの同情は林に集まる。
    しかし、この手紙を書いて皆を呼び寄せたのは実は林であった。映画版では林の印象が薄いのだが、舞台版では林を演じる山本泰弘が終盤に登場しながらも、1人妄想芝居の長丁場で大車輪の熱演で爆笑を誘う。
    映画版は男たちの妄想場面を再現映像で見せるが、舞台版の魅力は文字通りライヴ感覚の芝居で客を引っ張っていく。ここが大きな違いだ。
    林は聞き間違いからトンチンカンな行動をする青年という設定で、医師が「どうしよう」と言ったのを「脳腫瘍」と聞き間違えたという後日談がナレーションで加わるが、映画でも舞台でもこのダジャレのようなオチが私には面白くなくて拍子抜けし、欠点に感じられた。
    映画版のサイト・レビューでも「キサラギ」と比較し、ラストのオチに不満を述べる声が目立った。自分も「キサラギ」は映画で観たが、まったく別物に思え、思い出して比較する気は起こらなかった。
    サザン・オールスターズの曲が劇中効果的に使われるが、「湘南」ではなく「大洗」という田舎の海岸で男たちが妄想の恋を繰り広げる、だからこそ可笑しいし、切ないというのが、作者・福田の狙いらしい。
    特に印象に残った俳優は3人。超おしゃべり男で秘密が守れないマスター役の佐藤正和。映画版の佐藤二朗(TVで好きな俳優です)のイメージと重なる好演。10月のクロカミショウネン18番外公演での二枚目風ラジオディレクター役とは別人に見えた。キザなストーカー、杉本役の鎌倉太郎は公演前日に観たNHK教育で録画放送された無名塾の公演「マクベス」に出演していた俳優で、これもまったく別世界の爆笑演技を見せた。
    最後にモダンスイマーズからの客演で弁護士を演じた古山憲太郎。モダンスイマーズではこれだけ台詞の多い役は演じないそうで、かなり苦労したらしい。映画版関口の安田顕は器用さを生かして「チャッカリ・したたかタイプ」で演じて面白かったが、古山は弁護士という職業的な真面目さゆえに見逃せない性格の関口を表現し、真面目に矛盾を力説するほど可笑しさが出た。彼の真っ直ぐな芝居を観ていると、「役者は舞台に内面がにじみ出るからふだんの生活が大切」と語った共に名優の市川猿之助と藤山寛美の言葉を思い出す。
    カーテンコールでひときわ深々と頭を下げる姿に古山の舞台に対して謙虚で真摯な姿勢がかいまみえた。 

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    2009/12/16 12:44

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