『垂る』-shizuru- 公演情報 ポかリン記憶舎「『垂る』-shizuru-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    溢れる
    舞台上にあらわされること、
    一つずつをみると、
    眉をひそめる以上に変哲もないことの重なりなのに、
    溢れる・・・。

    それも尋常ではないほどに・・・。

    とても不思議な体験をさせていただきました。

    ネタバレBOX

    古びたアトリエヘリコプターの階段を上がる段階で
    すっと空気の密度が違う気がする。
    場内に入ると木の香がかすかに・・・。

    通常とは異なる舞台の切り方に驚き、
    横長の座席配置に少し戸惑って・・。
    そして細い木を組み合わせた舞台装置や床の角度に
    見入る。

    物語は淡々と進みます。
    夕暮れ近く、
    最終便の水上バスに乗ろうとする若いカップルの会話。
    遅れてやってきた夫婦の会話・・・。
    そこに一人の女性が現れて。

    つながる感覚、止まる時間、
    ふた組のカップルを結ぶ糸が生まれたり。
    舞台に流れる濾過されたような時間が
    携帯電話をかける女の登場によって揺らぐ。

    その揺らぎがなんともいえない空気の歪みを作り出していく。
    車いすに座った老人と介護の女性の姿がそこに拍車をかけて・・・。

    なんだろ、いやな気持ともすこし違うのです。
    舞台が醸し出す独特のトーンの中だから
    見つけられるような淀みのようなものを感じて。

    で、初老の女性が現れて・・・。
    彼女が水上バスにで起こる修羅場を予言する・・・。
    突然に降りてきた、あいまいな死の可能性
    伏線的に置かれた
    その日がシーズン最後の水上バスの運行日であり、
    最後のバスの運行であることが
    さらに空気を波立たせて・・。

    若いカップルが取り込まれるように始めた
    生と死の端境の風景での会話。
    すごく自然に空気が膨らんで
    で、若い男女の気持ちが溢れる・・・。

    隠微な言葉なんてほとんどないのに
    溢れる感覚があたりまえのように観る側に伝わってくるのです。

    呆然とする・・・。
    でも物語にはさらに奥があって・・・。

    その感覚の先に全く異なる容器が用意されるのです。
    登場人物が、若い男の記憶の中でのロールに吸収されていきます。

    電話をかけていた女性と母親の記憶が重なる・・。
    荼毘に付される母親の記憶と、
    その死の受容・・・。
    男の過去と今が寄りあわされて。

    終幕、
    舞台の空気が、冒頭のたおやかさを取り戻していることにハッと気がついて。
    時間と空気を編み上げていく明神作劇に、完全に飲み込まれていたことを悟ったことでした。

    この感覚を観客に与えるために、
    この舞台装置や光が欠かせなかったことが本当によくわかる・・・。
    役者の演技も舞台の空気にしなやかになじんで
    言葉にできない、とても得難い時間を体験させていただきました。




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    2009/12/13 15:50

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