燐光のイルカたち 公演情報 劇団青年座「燐光のイルカたち」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    壁と軍隊によって閉じ込められた人々の、鬱屈が丹念に描かれていく。それは夫婦げんかやシナリオ作家の夢など、どこにでもあるような暮らしなのだが、鬱屈を抑えきれなくなったとき、思いもかけない事態が起こる。その事後を生きる男の目から、過去が振り返られていく。関西弁のノリと明るさと、壁が醸す不穏な空気、今はなぜ弟も父母もいないのかという謎がないまざって、目の離せない緊張感のある舞台だった。ラストの展開の落差は、一つのカタルシスを生んだ。

    真守(まもる、松田周)と妻の一恵(三枝玲奈)と、北から越境してきた凛(古谷陸)の現在に、真守の過去がフラッシュバックしていく。過去から現在への転換には、機銃掃射とハードロックの大音響に、3人の北軍兵士が店を襲うシーンが挿入される。過去はまだ真守の父母と弟との4人暮らし。弟のひかる(君澤透)は映画が好きでシナリオ作家志望。父健人(松川真也)は大工なのに、穴掘りのような仕事しかさせてもらえず、いつも不機嫌。母京子(野々村のん)は畑でキャベツを育ている。店の窓からは、立ちふさがるように灰色の壁が建っているのが見える。
    家族を時折訪れる、父の友人の丈二(横堀悦夫)。「追悼デモ」の記録映像をとっているが、南のテロリストとも関係があることがわかってくる。

    あの壁は何を象徴しているのか。ベルリンの壁か、南北朝鮮か。向こう側の北軍の兵士が南側をも監視しているところを見ると、イスラエルとパレスチナの関係が一番近いようだ。そう思っていると、あの事件を思させる展開になる。

    ネタバレBOX

    ひかるはシナリオコンクールに入賞して、他国に3か月の留学に出る。しかし、これは丈二が絡んだ、テロ組織のリクルートだった。舞台奥の店の壁を取っ払った、奥行きのできた無機的な舞台。ひかるが一人、その後の故体験を語る。ひかるは3か月を終えると、テロリストとしての訓練を受け、飛行機を仲間と共に乗っ取り、飛行機もろとも突っ込んでいく…。北軍の背後にいる大国に一矢報いるため。テロのリーダーは「これは私が考えたスペクタクルなのだよ」とうそぶく。母がキャベツ畑で狙撃されて死んだことが、ひかるをテロに駆り立てた。

    犯人家族として真守も父も北軍に逮捕されて拷問を受け、父は死んだ。真守はこれからどうするのか。何が起きるのかわからないが、生きていくことだけは間違いない。

    ラスト、残った店で真守は凛とパンケーキを食べる。凛は一緒にシナリオを書こうと言う。そうすれば南北両方のことがわかると。真守の幻視のように、凛とひかるが映画のパンフレットで盛り上がるシーンが現れ、背後の壁には、狙撃されたアーティストの残した二頭のイルカが泳ぎだす。「一緒に跳べば壁も超えていける」

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    2022/09/29 10:45

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