満足度★★★★★
観客は13人目の陪審員
まず、コクーン初出演という中井貴一をはじめ、12人の陪審員の配役が
新鮮だった。品川徹、田中要次、斉藤洋介、辻萬長らの性格俳優が
揃ったのも大きい。
平面的に席を並べると「最後の晩餐」の絵みたいになってしまう
と蜷川幸雄は思い、いかに立体的に見せるかと知恵を絞った
ようだ。派手な視覚的演出が望めないので、観客が退屈してしまう
と一気に重苦しい空気になってしまうだろう。ベンチシートが舞台
を四方から取り囲み、日頃身を晒すのに慣れている俳優もかなりの
緊張感だったと思う。観客もまた13人目の陪審員の気分で舞台を
見つめる。
今回注目したのは、蜷川が上演に際して原典に当たり、
改めて翻訳して上演台本を一から作り直した点である。
この芝居の核となる「8号」同様、演出陣も先入観を捨てて、
立ち向かったというわけだ。
「改めて人間について考えて頂く芝居にしたかった」と蜷川は訴える。
人は人を裁くときにも、「自分」という人間から逃れてそれを行うこ
とはできない、ということを強く感じ、いろいろな意味で複層的に
楽しめる芝居となった。