コラソンのかぎしっぽ 公演情報 コラソンのあんよ企画「コラソンのかぎしっぽ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★


     短篇オムニバス3部作と題された公演で、共通項はトラウマと謂えよう。当パンを拝見すると3年ぶりの公演ということである。3作品何れも重いテーマをかなり軽やかに仕立て、而も登場人物数に無駄のない事、脚本に於ける性格描写や仕草態度に現れる状況への反応を含め極めて本質的且つ丁寧な表現に達している点に感心させられたのは、この3年のたゆみない努力と集中の結果であろう。各々30分程の作品であるが、筋の展開も滑らかで自然であり、同時に登場人物達の傷が観客に問い掛ける問題はキチンと我々を立ち止まらせ考え込ませるに充分である。作品のあらまし、舞台美術等については以下に記す。
     舞台美術の基本形は下手にある階段を登り切った所からが板である。板上は、階段に平行するように黒幕で覆われた一角が袖として機能するが、出捌けは階段と客席側通路の2カ所。これが3作に共通する構造である。各作品によって用いられる小道具は異なるので作品毎に大方を説明する。オープニングではコラソンのかぎしっぽや、他の様々なにゃんこが登場する動画が流される。にゃこの世界にも色々あるにゃ、と観て居れば良いにょら! にゃ。この主宰なら、何をやっても良い作品を創るだろうにゃ。今後も楽しみにゃ~~~~。

    ネタバレBOX


    1:「ユンタン、故郷に帰る」
     設定はマンションの一室といった趣。ドアは役者陣の演技で表現するので実際に造作は無いがドアの場所は階段を上がり切った直ぐである。室内は奥に、上部にTV等の載った収納用家具、板中央にテーブル、その奥に座布団、部屋の上手には予備の座布団が重ねられている。暗幕内側はキッチンと仏壇の置かれた部屋があるという設定だ。
     初老の男(父)が独り居る。チャイムが鳴るが、何故かその後の反応が鈍い。漸くドアを開けると女性が独り立っている。何となく入りづらそうだ。だが、親子である。久しぶりに帰郷した娘であるにも関わらず不自然な動作は、勘当されていた娘だからであった。父は許していたのだが、娘は母が亡くなった後も母は自分を許していないと信じている。それで態度がぎこちないのだ。娘には自分の所為で父の経営していたタクシー会社が倒産したのではないか? と内心忸怩たるものがあった。娘の過ちとはAV女優をやっていたことであった。信州の某所が舞台として設定されているのだが、矢張り地方では、社長令嬢がよりによってAV女優として有名になってしまえば、父の経営する会社や従業員迄、悪口雑言をぶつける対象になる。一家の評判はがた落ちだ。それは娘として痛い程分かるから、友人から最近聞き知った会社が他人の手に渡った話もそれが原因で破綻したのではないか、と娘は気に病んでいたのである。にも拘わらず存命中、母には決して許して貰えず実家に戻ることも出来なかった。だが会社破綻の原因は父が連帯保証人になった相手が経営に行き詰まり失踪してしまったことが原因であった。また彼女がAV出演したのも騙されてイキナリ書類にサインさせられ、而も撮影は既に現場も決まっていて直ぐにそこへ連れて行かれ契約に違反すれば数百万の違約金支払い義務があると脅されての出演であった。契約期間は2年、現場スタッフは皆感じも良く、手荒なことをされることも無かった為、また彼らも家族を抱え、生活をする為に関わっていることを思うと自分が出演することで金になり彼らの生活が保障される構造を思えば仕事をキャンセルすることも出来なかった。
     この事情の詳細が判明するのは、人手に渡った会社の旧従業員リストラ回避の為に兄が奮闘して一部の従業員は新会社での再就職が決まったことや、権利移転後の種々の雑用や人間関係に今も多忙を極める兄と妹を会わせて驚かそうと考えた父の「兎に角寄れ」の号令に兄が従ったからである。妹を見るや否や、兄の怒りが炸裂、妹がAV出演した結果家族や会社、従業員の被った被害の実情が暴かれ観客に分かる作りになっている訳である。兄は結局、形としては怒って直ぐ帰ろうとするが、父に久しぶりに来て母さんに挨拶もせんのか! と怒鳴られ仏壇で祈ると直ぐ次の仕事に戻ってしまうが、残った父と娘の対話の中で、母や兄の家族としての深い念をも父が説明し、娘を肯定することで傷ついた娘の魂に射す一条の光が見える形で終演。
     By the way,今作の効果音に都会でも良く鳴き声を聞く鳥・シジュウカラの鳴き声が用いられているが、彼らは20以上の単語を持ちそれらを組み合わせて文章を175以上駆使することができる、との解説もしてもらえた。自分も鳥の鳴き声や虫の鳴き声等を日常的に観天望気に応用しているので納得がゆく話であった。
    2:「ディック・マードック」
     来日したこともある、プロレスラーのディック・マードックのファイトシーンや、一度リング用パンツをずらされてお尻が見えてしまったことが観客に受けて以降、わざとパンツの紐を緩めにしてずらされるように仕組んで居たお茶目なマードックの紹介映像が映された後、作品が始まる。板上は喫茶店内部。丁度奥と手前の中ほどに丸テーブルと椅子が距離をとって配置されている。上手丸テーブルには、男性客が1人、観客に背を向けて腰掛け、下手丸テーブルには、芙由美が観客の方に顔を見せて座っているが、雑誌を広げて読んでおり、途中から彼女の親友・遥が登場、右隣に座る。下手客席側に接するように参加した観客が喫茶店の客として座っている所にも小型丸テーブル。
     芙由美と遥は既に37歳、未婚であるが、芙由美は近々結婚の予定で式場を選ぶ参考にする為ブライダル関係の雑誌を読んでいたのである。遥は積極的で気が強く、芙由美が子供の頃苛めを受けていたのを助けて以来の親友である。芙由美は、内攻的なので全く他の客の迷惑になるようなことは無かったが、遥到着後、静かだった喫茶店は俄かに騒々しい喧騒の場に早変わり。その様たるや式場選びでも恰も主役は遥の如き勢いで他に客がいるにも拘わらず大声で話す。だが、それだけならまだしも若い頃から2人であちこちに外遊した思い出を語るうち、ブラジルでナンパされた男達を相手に乱交紛いの饗宴を楽しんだ下ネタを大声で話すものだから、客が喫茶店のマスターに注意してくれと頼み、一度目は何とか収まったものの、直後トルコでも矢張り男達と致した下ネタを大声で騒ぎ立てたものだから先程の客が再びマスターを呼んで注意して貰っていると、女2人が逆切れ。大人しいハズの芙由美は殊に激しく切れて凄い啖呵を切り、女2人で客に乱暴狼藉を働き、様々なプロレス技でさんざん痛めつけたのみならず、客席に居た観客の方に彼を放り出す、そこへ棍棒型の器物をフルスゥイングされてかっ飛ばされた後、一斗缶で頭を強打された客はKOされてしまう。この被害者役を主宰の西山氏が演じている。作・演・役者3役をこなして一番物理的に痛い部分迄請け負っている点に、主宰としての覚悟を感じた。
    無論、遥は芙由美に先を越され、自分独りが独身であることを今更乍ら悔しいとも、惨めとも淋しいとも思い、本来ヘテロであることもあり、このような展開の中独り取り残される身になると、ずっと共に過ごして馬鹿なことも一緒にやった友への羨ましさが内側から沁み出してきたのであろう。この辺り、伴侶を得て強くなっている芙由美と遥の心理的優劣の関係がほの見えるようで興味深い。
    3:「かつおの玉子焼き」
     玉子焼きは定番メニューのそれである。かつおが平仮名表現なのは、無論、言葉遊びだろう、板上基本的なレイアウトは下手に斜めに置かれたベンチが1つ。これだけである。階段を上がってきた酔っ払い男・日系4世のミゲールはベンチの傍に財布が落ちているのを見付けた。拾おうか、そのままにしておこうか逡巡しつつ、財布の周りを何度も周回した後、財布を拾い上げ中身を確かめたりしている。ミゲールの服装は半分路上生活者のようである。髭もぼうぼうだ。そこへ身なりのパリっとしたサラリーマン風の男・勝男が現れ財布を返してくれ、と言う。勝男はミゲールが財布を盗もうとしていたと勘ぐり、見付けて直ぐに普通は警察に届けると主張、これに対してミゲールは中身を確認して持ち主が分かったら直接連絡して返す方が相手も助かるし手っ取り早いから中身を見て居たのだと返し、免許証を見て財布が勝男の顔写真と同一なので正当な持ち主として返そうとしていると互いのやり取りが暫く続くが、ミゲールは犯意の無い自分に疑いを掛けたり、その上で自分に失礼な態度を取ったことを詫びろ、と迫る。その際、ミゲールが子供の頃、悪いことをしたと分かった時にはキチンと謝ることを母から教えられた話と共に、母の作ってくれた世界一おいしいペルーの玉子焼きの話が出る。まず、トマト、玉葱と少々の大蒜を微塵に刻んでソテーしそれに溶いた卵を加えて軽く塩を振り掛ける。こうして作って貰った玉子焼きの数々の思い出を語ってくれるのだが、この話実に心に沁みる。一方、勝男はミゲールに早く立ち去って欲しい。様々な対話が他にもあるが、最終的にミゲールが2千円をくすねていたことを指摘する。万札も入っていたのに2千円しか盗らなかった理由も一連のの対話の中で納得させられるが、何れにせよ財布からくすねた2千円は、見付けてくれた礼として目を瞑る。と言ったりもするのだが、ミゲールは、返金しようとして一悶着。寧ろ彼はもっとフレンドリーで自分の住む部屋へ一所に行き飲もうと誘う。然し勝男はガンとして受け付けない。勝男は、貧しかったミゲールより更に不幸な育ちをしていた。それでも何とかミゲールと仲直りしてミゲールはこの公園を離れた。そして今、彼は自殺しようとしていた。公園の木の枝に買って来た紐を何重にも掛けいざベンチから飛び降りると、枝が折れて勝男を死なせなかった。死ねずに我に返った時、不幸な子供時代にも母が作ってくれた甘くふっくら焼かれた玉子焼きは世界一であったことをしみじみ思い出して幕。
     今作の中にも2と同じように主宰が酷い目に遭うシーンが挿入されて笑いを誘うが、本当に西山氏の体当たり演技にも励ましを頂いた。感謝したい。言う迄も無いことだが、味わい深いシナリオに無駄の無いキャスティング、役者陣の力、舞台美術の合理性、動画の使い方の妙、劇場の使い方、音響・照明も良いバランスで生の舞台の良さを堪能した。観客への心遣いも有り難い。今後の作品にも期待している。

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    2022/09/13 11:23

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