錦繍 KINSHU 公演情報 ホリプロ「錦繍 KINSHU」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    墨絵のような美しさ
    シンプルな装置の中で、静かに浮かび上げる運命の哀しさ、そして一瞬の光。

    すべてを読んでいるわけではないのだが、宮本輝の小説の中では、原作となる『錦繍』が一番好きだ。
    好きな小説なだけに、期待と興味で上演を観た。
    とても素晴らしい舞台だった。

    言葉にならない「何か」をすくい上げていたのが、原作の小説だった。
    そして、そのすくい上げたものをさらに、舞台にして見せてくれていたのだ。

    ネタバレBOX

    原作の往復書簡形式を見事に舞台化していた。
    手紙というものは、相手を目の前にしてコミュニケーションをとるものではなく、相手を脳裏に思い浮かべながら綴るものだ。
    そのときに相手への想いが、ペンに直結するのだが、自分の気持ちを言葉にすることは、自分との対峙でもある。
    自分の意識の下にあった気持ちがふいに浮かぶこともあれば、ホンネから無意識に遠ざかることもある。

    特に男女間の手紙はそうではないだろうか。
    さらにこの舞台での、かつて夫婦であった男女がまた偶然出会い、言葉もあまり交わさずに別れていった後の手紙は、自分の気持ちを巡る言葉の探索や言葉にすることの逡巡、せめぎ合いがあるだろう。

    相手との会話であり、自分との会話でもある。

    ホンネを語ること、知ることは恐ろしいものであり、自分の人生を否定しかねないからだ。

    そんなもどかしさが見事に描かれていたと思う。

    白と黒を基調としたセットと衣装、それなのに、華やかに見えたりするのだ。

    休憩を入れて3時間20分の長さは感じず、舞台に釘付けになった。
    当然だが、どの役者もじっくりと「人」を見せてくれた。
    人の気配や影を感じさせる演出も心に残った。
    舞台で生演奏される尺八も効果的であり、ストーリーに関係するモーツアルトの曲との響き合いも美しい。

    「錦繍」は、そのタイトルからも、大切な色がある。したがって、その色だけは舞台で、鮮やかに見せてほしかったと思うのだが、あえてそうせずに、台詞に込めて観客にゆだねたのかもしれない。
    しかし、個人的には、大きな舞台で冴える色を観たかったという想いはある。

    シンプルな装置や演出は、今年観た『春琴』のイメージにやや近かったともいえる。

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    2009/11/13 05:18

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