あの夏の暗い夜、虹の袂のエデン。 公演情報 Oi-SCALE「あの夏の暗い夜、虹の袂のエデン。」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    観(魅)せる”力”のある物語。
    テーマは「生きる」といった根源的なところを描いている。一見 ダークサイドを思わせるが、それは見栄やプライドなどを捨て どんな辛苦にも耐え生き抜くという、人の奥底にある生への執着とも言える。全編 薄暗がりで紡がれる。それは 2011年東日本大震災以降、福島第一原発事故等の影響による節電で街灯の灯が間引きされたこと、夜の闇に紛れて仕事をする人々の暮らしを現わしている。

    東日本大震災から10年も経たないうちに、今度はコロナ禍で人々の生活様式に変化をもたらす。一時は夜の街の灯りも消え、生活の心配・不安といった焦りにも似た気持が…。しかし、その状況(コロナ禍)はまだ続いている。公演は、そんな状況下においての上演、そこには演劇を通して 明日への夢や希望を抱き続けさせる”力”が漲っていた。
    (上演時間2時間 途中休憩なし 脚本演出の林灰二 氏のプロローグ・エピローグ的な会話を含む)

    ネタバレBOX

    上演前には風と海鳴りのような音響、そして「♪あの子は~♪」の印象付けの音楽。
    舞台美術…奥は黒壁か暗幕、その前に鎖のようなものがカーテン状に吊るされている。冒頭、舞台上 スタンド型の裸電球が縦1列に並んでおり、その延長として客席上部には吊るしてある。上手や下手にカゴ台車があり、物語の展開によって可動させ情景を作り出す。劇団の特長である光とサウンドに拘ったアート性の高い空間演出は、この公演でも特筆すべきところ。

    物語は、東日本大震災で被災し、ボランティア アルバイトという響きの良い言葉に騙されて東京(吉原)のソープランドのリネン回収業者で出稼ぎ労働をすることになった男達の話が中心。しかし東日本大震災の悲惨さを殊更に強調するわけではなく、今の状況を淡々と喋り描くことで10年という歳月が人々に与えた影響を炙り出す。人と生きるより 街と生きることを選んだ者たちは、人並みの暮らしを求めるのではなく街に生かされているといった感じだ。故郷の東北にも帰る場所もなく、何となくこの街にいて食っている刹那的な情景にも思える。暗い夜を抜け出して楽園を目指した物語。ソープランドという場所から女性の悲哀も垣間見せ、男女問わずの物語を描き出す。同時に直接的に描かれない「生(性)の営み」が明日の活力を連想させる。それがラストシーンへ…。

    街と生きるを思わせるのがドライブシーン。夜の街道、運転しながら高田(村田充サン)が淡々と喋るシーンは、どこかに感情を置き忘れたような。その虚無感を思わせる表現に心の深淵を見る。そしてリネン回収会社の社長・松原(田中智也サン)の強面の存在感は、暴力と収奪の臭いがプンプンする。この二人の生き方とバイトの西原(中川パラダイス サン)の刹那的な生き方を対比させることで、どん底の生活にも関わらず、そこにも不条理な世の中が見えてくる。

    物語に出てくる街は、当日パンフに記載がある。例えば葛飾区ヒガシカネ町にあるクリーニング工場。土手沿い。東京と埼玉と千葉の境目にある、などリアルな光景が浮かぶ。
    タイトルに呼応した「虹の袂で待ち合わせしよう、虹の向こうの楽園に行くために。」は、劇中に出てくる「虹の橋」では少し残念 怖い。それよりは高田が以前居たフィリピンでみた「月虹」のほうがロマンがあり、夢と希望を持てるのだが…。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/09/01 22:16

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