トロイ戦争は起こらない 公演情報 人間劇場「トロイ戦争は起こらない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    劇作家ジャン・ジロドゥが、ギリシャ神話のトロイ戦争と戯曲執筆当時1935年の第二次世界大戦前後を重ね合わせて描いた戯曲。戯曲(内容的に)は力強いが、演出は独特な雰囲気を漂わせていた。叙事詩のような描き方は、物語のテーマともいえる「望まぬ戦争に向かっていく人間たち」という重厚 骨太作品を、観(魅)せる作品として観客に寄り添わせようとしているみたいだ。
    演出の立本夏山さんが当日パンフに「3000年前にも戦争があって、100年前にも戦争があって、今も戦争がある。歴史的に見れば人間は戦争を繰り返しています。なぜ戦争は起こるのでしょうか?」と記している。さて、現在「ウクライナから平和を叫ぶ」というドキュメンタリー映画が上映されている。そのキャッチコピーは「21世紀になっても人は戦争がしたいのです」…辛辣である。
    (上演時間2時間45分 途中休憩10分含む)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、大きさの違う平台を組み合わせ、中央奥に太針金を曲げ組(編)み込んだようなゲート状。上手にも幾何学的な針金オブジェ、奥には階段がある。一見「トロイ戦争」という時代を感じさせない現代アートの中にいるようだ。トロイ戦争を題材にしているが、「人間劇場版音楽劇として現代に蘇らす」そして「時代を超えて、戦争とは何か、人間とは何かを問いかける」と謳っていることから、敢えて 物語の背景を作り込まないようにしているようだ。とは言え、キャストの衣装はトロイ・ギリシャ風である。

    トロイ戦争は、ヘクトールやアキレウスといった勇者やトロイの木馬で有名である。物語は休憩を挟んでの二部構成。第一部は、トロイ戦争が起こる前の束の間の平和をどう捉えるか、といった人間の思いの違いを描く。特に男と女の意識の違いを詩の一節を準えつつ語る。第二部は、トロイの王子パリス(石川朝日サン)がギリシャの絶世の美女エレーヌ(田村彩絵サン)を誘拐したことでトロイは再び戦争の危機を迎える。エレーヌの魅惑的な容姿こそが平和の象徴という王、元老そして学者たちは、色々な理屈をつけて彼女の返還を拒もうとするが…。
    全編を通じて、平和を守ろうと奔走するのが、トロイの王子エクトール(脇田康弘サン)である。彼は度重なる戦争で人の死を見てきた。その悲しみ虚しさは終盤近くになって語られる。ラストは、軍人による平和協定を壊すシビリアンコントロールの暴走、戦争とは人間の愚かさ そのものを提示する。

    脚本(内容的に)は、考えさせるシーンが多く、語られる言葉(長台詞)は珠玉で記憶に留めておきたい。特に第一部の 戦争は「男」を勇者として称える場と考える男の立場、一方、平和は男も女も関係なく生きるに通じると考える女の立場が叙情的に描かれる。エクトールの妻アンドロマック(桑原なぉサン)は妊娠しており、生を愛しんでいる。
    第二部は美女エレーヌに翻弄される人々の滑稽さが浮かび上がる。公演では端的に「男と女の立場」の違いで描いているが、性差だけではなく色々な立場や考え方の人々の違いを尊重することが重要なのは明らか。勿論、多数意見だけではなく少数意見、その少数の男の考えと行動がエクトールであり、ぶれない信念が物語の救いであろう。

    演出は、「劇中歌を新たに創作し、音楽劇として蘇らせている」が謳い文句である。歌はアカペラ、そして鳥や獣の鳴き声などの擬声音。さらにパーカッション(楽器)を多用し情景や状況を描き出す、その「音」に拘りをもたせた公演である。演技はメインの役柄+コロスを担う。そして男と女に限らず、男同士、女同士でも体や腕を絡み合わせるようなムーヴメントが妖しく蠢く。勿論、男女の絡みは愛情表現、男同士は争い、女同士は語らいといった違いはあるものの、視覚的にはその身体の動きを追ってしまう。面白い演出と思うが、他方、小道具はビニール傘(骨)のようなものを利用した剣や王冠等の装飾品、その見た目に違和感を覚えるのだが…。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2022/08/27 18:58

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大