ノスタルジア 公演情報 劇団サーカス劇場「ノスタルジア」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★

    反戦への思いと恋愛話がミスマッチ
    劇団サーカス劇場が東大駒場を旅立つ記念作ともいうべき作品。
    「ノスタルジア」という題名には作者自身のノスタルジアも含まれているのではないだろうか。シベリア抑留の過去を持つ詩人の石原吉郎が登場人物のモデルになっている。シベリア抑留から帰国して舞鶴の桟橋に降り立った時、彼は自分は日本人皆に成り代わって戦争責任を果たして来たのだという自負を持っていたと言われる。晩年は狂気の中をさまよい、失意の死を遂げた。
    その史実をもとに創作したようだが、ここにも石原のように詩を読む青年が感傷的に描かれ、作品では「シベリア抑留の歴史を忘れるな」と訴えつつ、「彼女と別れてしまった」という青年のどうでもいい失恋話が交錯してきて、作品としての色が薄まってしまったのである。
    また、公演に先立っての諸注意を3回連続で清末浩平が行い、その3回目
    に諸注意を述べた直後、そのまま「ここで一編の詩を読みます」といきなり
    導入部に入るので興醒めした。劇中でも清末はナレーションを担当するが、ならば諸注意は他のスタッフに任せるべきだ。

    ネタバレBOX

    ここにも黒崎先生(森澤友一朗)が登場するので、紛らわしくなってしまう。だいたい黒崎先生というのは吸血鬼みたいな人物で、時空を超えて生きているようなところがある。本当の年齢は見た目とは関係ないことになっている。シベリアに抑留されたことを語り、その事実を多くの日本人が忘れていることをなじるのは黒崎だが、石原吉郎を思わせる記憶喪失の青年が出てきて、感傷的にわめきながら詩をかきとめようと紙をとりちらかすので、観ているとわけがわからなくなってくる。
    この青年の動きは後の「幽霊船」のミズホシとパターンが似ている。
    病院で「株主総会が開かれる」とか、表現がおかしいところもあった。
    結局、ラストは唐十郎の芝居のように舞台後方がパーンと開き、役者が外に
    走り出していく。「サーカス劇場の旅立ち」を表現したかったのだろう。
    コミカルな看護婦を演じた木山はるかの演技は、唐ゼミ☆の禿恵を思わせ、本当にアングラっぽい芝居だった。
     この作品あたりで、私に「いつも同じような作品を見せられているような気が
    するのはわたしだけでしょうか」と言った人がいる。
    「いやいや、私もだよ」と苦笑してしまった。
    東大のような秀才が多く集う大学でさえ、内容のこむずかしいサーカス劇場の芝居は圧倒的な支持や共感が得られなかったことが、その後のこの劇団の低迷の遠因となっているように私には思われる。
    つまり、観客の視点をあまりにも無視していて、「理解しない奴が悪い」と決め付けているようなところが見られた。
    思い入れを押し付けるだけで説得力に欠けていたのだ。

    0

    2009/11/05 18:03

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大