今は昔、栄養映画館 公演情報 みやのりのかい「今は昔、栄養映画館」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い!
    表層的には、漫才のボケとツッコミのように可笑しく観せ、内容は5分間の出来事を70分かけて不条理のように描く、といった印象だ。早送りのようなテンポの良さだが、事は遅々として進まないといった不合理さ。その相反するような不整合こそが、この公演の面白さだろう。
    そう思いつつも、自分の好みとして、観せ方に注文を付けたくなるのだが…。
    (上演時間1時間10分)

    ネタバレBOX

    舞台は武蔵野推理劇場のホールといったところ。上手に捥ぎりの受付台 入場料や飲食物の料金表がある。そして多くの洋画チラシが貼られ、下手奥の壁には「風と共に去りぬ」、下手 客席寄りに「ブラック・レイン」のポスターが画架に立掛けてある。試写会や初日舞台挨拶の時に よく見かける光景だ。後々 重要になってくる固定の黒電話の置台。そして中央に7~8脚の木製椅子がランダムに置かれている。椅子だけを動かしていく。

    登場人物は礼装した二人の男。映画監督役の宮地大介さんと助監督兼諸々係のジョニー高山さん。映画の完成披露パーティ、その開始5分前という設定。監督は袖ボタンを縫い付けたい、挨拶文も覚えたいといった落ち着かない様子。一方来賓が来るのか来ないのか不安な気持のところへ黒電話が鳴る。突然姿なき第三者が入り込み、それから頻繁に電話がかかってきて、(来賓)席の確保が依頼される。その場にいない人物に翻弄される二人。登場人物以外の居ない人物の言動に、右往左往し慌てふためく姿は滑稽であるが、冷静に考えてみれば、社会(もしくは世間)の曖昧・不確かな情報に踊らされている自分達の姿のようにも思える。

    当日パンフに演出の小宮孝泰氏が、「『栄養映画館』を読んですぐに感じたのは、『ゴドーを待ちながら』へのオマージュである」と記し、続けて、しかし台詞も修正し、ト書きにも大鉈を振るったとある。その根底には、小難しい「不条理」を描くよりも観客に喜んでもらいたい、楽しんでもらいたいとの思いがあるようだ。舞台となった映画館の(レトロな)雰囲気、台詞に 映画に関する小ネタが散りばめられ、映画好きの自分には至福の時であった。映画タイトルを相互に言い合う場面では、関連し合う映画を次々に言い、知識・造詣の深さを感じさせる。そこには、単に楽しむだけではなく、映画愛ある業界人としての姿が立ち上がってくる。

    台風接近という悪天候にも関わらず、観劇に出掛けた。劇中、監督が 雨が降って思い出が地面に吸い取られる、雨で思い出が滲む、といった しみじみとした台詞は、台風という状況こそ違うが思い出深い公演となった。全体的にスラップスティック場面が多い中で、滋味ある場面を入れたことで、小宮氏が意図した面白味8分、深み2分になったと思う。何故、敢えて「ゴドーを待ちながら」とは別のテイストを選択したのか、その思いも当日パンフの前段に記しているが…。

    最後に、来賓席確保のために礼服を脱ぐといった行為、その笑わせ方が安易に思える。舞台(完成披露)の設定や映画愛といった上質な面白さが、別な面白さ(脱ぐ脱がないといった逡巡する滑稽さ)にすり替わる。出来れば、裸(の勝負)ではなく、演技や台詞で映画の芸術・大衆・娯楽性といったところを面白可笑しく観(魅)せてほしかった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/08/14 17:03

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