満足度★★★★
重い重い虐殺の現実より,日常の普通の人として小林多喜二を音楽劇として描き,より冷酷な事実を浮き彫りにする.
私は不勉強でお恥ずかしいのですが、小林多喜二は
「蟹工船」の著者であるということしか知りません
でした。
今回、この芝居で「虐殺」の事実を知りました。
同様の観客はかなりいたのではないかと思います。
劇は、井上ひさしさんらしい音楽劇であり、
悲劇よりは喜劇として描かれています。
「虐殺」の事実は、劇中では短くセリフで語られた
だけで、その酷い事実だけではなく、彼らにも
その時代の普通の生活があって、笑いも涙もある
日々を送っていたことに重きを置いた作品です。
井上ひさしさんは今回も全身全霊で書き上げた、
その揺るぎのない作品世界には圧倒されます。
パンフレットには、セリフの内容よりも
もっと残酷な拷問の跡があったことが載っており、
その写真も一部掲載されています。
(いつもながら、こまつ座のパンフレットの詳細な記録・
記事の充実ぶりには感心します。)
ミュージカルスターとして知られる井上芳雄さん
の歌はさすがに聴かせますが、
上手くなりすぎないように
歌いあげないように配慮しているようで、
通常のイメージにある歴史上の人物ではなく、
ひとりの人間としての演技が光っていました。
ほぼ弾きっぱなし?の印象がある小曽根さんによる
ピアノの生演奏も素晴らしく、
つらい過去を抱えて耐える石原さとみさん、
元気でたくましい高畑淳子さん、
凄みに温かさを漂わせる山本龍二さん、
コミカルが魅力の山崎 一さん、
必死に多喜二を支える神野三鈴さん、
と出演者の方々の競演も見ごたえがありました。