風のサインポール 公演情報 劇団俳優難民組合「風のサインポール」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    ベンチシリーズ第二弾。前作は、別役実「いかけしごむ」で孤独と寂寞といった世界観を観せてくれたが、本作は同じようにベンチを使用しているが、また違った雰囲気を漂わせている。どちらかと言えば、分かり易いストレートな内容で前作ほどの味わいは感じられない。しかし心情・情景描写といった演技力・舞台技術(特に音響効果)は印象的だ。
    (上演時間1時間)

    ネタバレBOX

    会場に入るまでの階段にキープアウトテープ、そして舞台と客席の間にもある。上演前に取り外し、奥は暗幕で囲われ中央に青ベンチ、その下に何故かホームベースがある。ベンチの右に持ち運びできるサインポールが置かれている。物語の進展によって、ここは立ち入り禁止になっている野球場であることが分かる。別役作品で用いられる街灯は、この物語では客席側上部に設えた、球場内を照らすライトといったイメージだ。
    出演者は男優二人。役名は「床屋」と「青年」で、敢えて抽象的な存在にすることで、個人ではなく“人間性”を浮き彫りにしているかのよう。

    真夜中 風が吹きすさぶ中、一人の男・床屋(山田隼平サン)はベンチに座り髪型(分け目)9:1分けを説明している。取り留めのない独り言、そこへ上手 客席側から一人の男・青年(福本雄樹サン)がホームスチールしてくる。偶然か必然か分からないが、二人は出会う。実は床屋は青年を知っているようで、親しげに話しかける。青年は、床屋が思い込んでいる男ではなく人違いだと説明するが….。
    因みに髪型9:1分けは、その人の(強烈な)個性を表現しているような。

    二人の ちぐはぐな会話、しかし少しずつ状況と心境が変化し、なぜ床屋が青年の正体に拘るのか、といった謎が明かされる。この噛み合わない、いや惚ける会話と展開の妙が見せ所であろう。出会い方こそ不明確であるが、以降の展開は分かり易い。前作のような孤独・寂寞といった雰囲気はなく、不条理といった味わいとは別の、どちらかと言えば未来志向を思わせる内容だ。床屋(父親というワンクッションを入れず、自分の現実〈過去〉の話の方が説得力がある)としての生き様は青年と共にあり、青年のリスタートは床屋の生き甲斐にも通じている。青年の野球人としての活躍、そして期待外れの結果は、その後の人生を一変させる。世間に背を向けて、ひっそりと生きる。

    青年が野球選手であったことは分かるが、プロ選手ではない。高校野球とも違うようで実業団野球か?世間に背を向けることは、自分が所属していたチームメイトとの関係性へ及ぶ。ホームベースの存在の意味、そこに隠された謎こそ青年が背負った苦悩のように思える。終盤、二人の道行きは「サインポール」の仕掛け、どちら(赤or青の切断)を選ぶのか。それは人生の岐路の選択のようでもある。
    男優二人の演技は確かで、ベンチに座ったり、その上に立ったり存分に活用しており、“ベンチシリーズ”に相応しい観せ方だった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/07/23 16:37

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