実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/07/22 (金) 14:00
座席1階
地方都市の市長が地域活性化にと企画した芸術祭。その最優秀賞の作品をめぐって表現の自由と役場の論理としての公益性の大激論が交わされた2時間半。トラッシュマスターズらしい見ごたえのある作品に仕上がっている。
主宰の中津留章仁は「表現の不自由展」もモチーフにしたと言っていたが、客席から見れば直接の関係はないと思う。むしろ、市長の妻が地元の有名企業の娘で、その企業が戦闘機の部品?を作っているとしていわゆる軍需産業として描かれ、その企業が最優秀賞の授与を取り下げるよう圧力をかけてくるという展開が興味深い。
会話劇の中で受賞作品の作者と選考委員長の記者会見がある。少し違和感があったのは、会見でとうとうと公益を主張して怒鳴り散らす県職員(広報課員)だ。通常の記者会見では補助金を出している県側が会見で記者席に座ることはあり得ないし、仮にあったとしても、手を挙げて発言を求め、県の立場(自説)を激しい口調で述べることなどさらにあり得ないからだ。会話劇としては面白いが、設定が間違っている。主催者が主催者に論戦を挑んでいるようなものだからだ。
もう一人質問に立った記者はたぶん、地元紙の記者なのだろうが、どうも話の後半になって気づいたのだが、この新聞社も実行委員会に入っているようなのだ。ということは県職員と立場は同じで、公平な報道をする立場の人間とは言えない。
こうした突っ込みどころもあるにはあるが、表現の自由がいとも簡単に覆るというありさまを見せつけられたのは、さすが演劇の力だ。一度は最優秀に選んだ作品を取り下げるという展開はとてもリアリティーがあるが、さらに最終段階ではもう一波乱ある。家族の物語として描いたところが安易という批判もあったが、自分としては、この市長夫婦の葛藤は心に染み入るところがあった。
最優秀賞を取った画家の記者会見での態度は横柄であったが、言っていることは正しい。「これでは記事になりません」と会見の場で泣きつくような質問をしている新聞社の記者は、修行が足りなさすぎる。昨日入社した新人みたいで、新聞記者が押しなべてこのようなへなちょこばかりと客席に思われては困る。
コリッチでも議論沸騰のこの作品だが、それだけインパクトがあり、問題提起を行った優れた戯曲だということだ。あえて注文を付ければ、SNSなどインターネット言論の無責任さをもう少し丁寧に描いてほしかった。私に言わせれば、この最優秀作よりもネット言論の方が出鱈目なのだから。