私、のはなし 公演情報 まばゆいみちで「私、のはなし」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    旗揚げ公演とは思えないほどの力作。また楽しみな演劇集団に出会えたことを嬉しく思う。同時に今後の活動、そして伸びしろに期待大。

    物語は長野県の とある街で生まれ育った私 多田唯似 22歳の人生、その心の彷徨であり、荒ぶる感情を咆哮するといったリアルを描いた内容。当日パンフに脚本の香月蛍 女史が、この物語は「どこまで私(香月)の話で、どこから私(唯似)の話か考えながら観ても楽しいかも」と記している。実話ベースであるからリアルなのは当たり前か。冒頭、唯似が あくまで舞台上の物語であることを説明するところから始まる。

    さて、「当たり前」「普通」といった感覚は何か、比べようのない不安や苛立ちといった表現し難い気持・感情を主人公の生き様を通して浮き彫りにしていく。公演は唯似役の うさみみずほサンの熱演、一方 その人間性を冷徹に観察・見つめるような演出、その熱・冷相俟って観応えある作品になっている。
    (上演時間1時間45分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台セットは、上手に箱馬2つ、下手に赤いカウチソファ。後ろに整理BOXや洋服掛けが置かれているシンプルなもの。場面毎に缶ビールやコーヒ等の飲み物や小物が使用されるが、場面転換時に後ろのBOXへ収納していく。そこに過去の積み重ねを見せる。終盤の心の崩壊や生き方を否定する、その表現をそれら小物を ぶちまけるといった象徴的行為で示す。

    物語は、唯似の小学生から高校生までの学校生活、進学せず働きながら舞台女優の活動といった過去・現在を交錯させて展開していく。小学生時代は母との買い物光景、兄が求める禁断の遊び、中学時代は八方美人(相談相手)的な存在、同時に独りでいることの心地良さ、高校時代は文化祭の遣り甲斐といったトピックを現在の生活と絡めて描く。過去の出来事を点描するといった描き方ではなく、生きてきた時々の活動や気持の積み重ねによって、今の自分がある。しかし自分肯定がなかなか出来ず、不安や焦燥若しくは葛藤といった負の気持が大きくなり心の崩壊が始まる。

    仕事(風俗含め)・演劇活動・恋人との同棲生活等、本当に色々な場面を挿入し、うまく向き合えない苛立ちを表現。例えば、恋人・高橋哲太(久地かずやサン)との会話…彼は普通で当たり前の生活に慣れてしまったが、唯似は楽しくドキドキした暮らしや気持で居たい。些細な感情のすれ違いを表した言葉。表現し難い気持、それを色々な場面で積み重ね、時々のストレートな言葉(台詞)で紡ぐ上手さ。
    心療内科の診断、通院してもあまり心配しない母との通話。「そんなこと」は心の持ちようと一蹴され…。

    ラスト、頑張ることはいけないこと?自問自答に正解はなく自分自身を追い詰める痛ましさ。そうなるまでの心の彷徨を実に丁寧に描いている。22歳女性の繊細な気持、現実に立ちはだかる問題を誇張することなくリアルに突きつける。時の経過は演技力だけではなく、衣装の早着替えによって視覚的に補足する。全体的に繊細かつ丁寧な印象、同時に心が抉られる様な不気味さと圧迫感。
    集団のコンセプト…「コミュニティでの生きづらさや、夢・目標と現実の間で押しつぶされそうな現在の自分を見つめ、現代社会において言葉にしづらいことや、あいまいに揺れ動く境界線をテーマ」は見事に成立していた。良い意味で印象に残る公演だ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/07/17 09:51

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