ことし、さいあくだった人 公演情報 藤原たまえプロデュース「ことし、さいあくだった人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    最近目にするがよく知らないユニット。みそじん等に脚本提供していた西岡女史(こちらも実はよく知らない)の作品をやる。何もかも未知数だが楽しげであるので(チラシにも惹かれ)観に行く。
    大方ウェルメイドな、人生の息抜き時間を予想・期待して着席したが、中々シュールなワールドに足を突っ込んでいた(と私には見えた)。関心のフックに引っ掛かるものが。。

    ネタバレBOX

    セミパブリックな場所であるカウンターバーに、マスター(見た目若い)と彼と同期っぽい小柄なバイトの女が居る。どうやらマスターと古くからの知己で、彼に頼み込んでバイトで雇ってもらったらしく、今しもマスターは用途別に色分けしたダスターのレクチャーをしているが女は覚えられない。客商売の経験があると言っていたが・・「松屋」「松屋!」(客席の笑い)「立派な客商売だ」。しかし彼女は仕事に困っている風でもなく先程から気もそぞろであるその理由というのが、ライター志望の彼女は今世話になってる編集長から大人の恋愛を扱うネット小説のオファーを受け、二つ返事で引き受けたものの明日の締切を控えて一行も書けていない。だから恋愛沙汰のネタが転がっていそうなこの店に知己を頼って来た、という訳なのであった。
    女は男に対し我が儘を通すだけの弁が立つが、如何にも恋愛経験には乏しそうである。と、土俵を整えたところへ、店の常連がやって来る。若い女である。
    彼女は新しい彼氏との出会いをノロ気気味に語る(手柄話のようにする彼女には男を漁る種類の女である疑惑浮上)。と言ってもそれはマスターの巧みな対話の誘導によるのだが、肝心のライター志望は全く乗って来ない。よく見ればアガっている。部屋で書き物をして暮らす彼女は人生経験豊富な女が大きく見え、気後れしているのだ。そこへマスター。君はこの仕事に人生賭けると言ったが本当にその気があるのか。諭された女は勇希を振い起こし、質問を投げるのであったが、どストレートな質問に客席から笑いが起きるも相手は「受ける~」と言いながら自分の喋りたいニュー彼氏の話をする。やがて待ち合わせをしているという職場のか弱げな女友達がやって来る。折り入っての話というので場所を変えようとするが、そこへライター女の不器用な直球台詞「ここで話せば?」。すると相手の女は「そうしようかな」と、予定変更。恋愛ネタが欲しいだけの女のど直球な質問に答える聴いてほしさ満載のか弱き女の悩みとは、今交際中の男彼氏の浮気疑惑、よくある話だがやがてその彼氏とは先の女のニュー彼氏らしいことが(当人ら以外に)判明。恋愛小説のネタ拾いのつもりが、予期せず大物捕獲の予兆。前半の暗転前までの展開は、この後かよわげ女が仕事中の彼氏に「来なきゃ死ぬ」と電話で脅し、トイレに籠っていると彼氏やって来る。浮気相手との目くばせ・・といった具合。

    さて長い暗転の後は、新たな客、こちらは新客でスーツを来た仕事帰りの二軒目といった所。女が出来ない事に悩む男と、彼を励ます同僚と課長の三人組で先とは全く異なる場面が展開し、同じ店で展開する短編集かと勘違いしそうになるが、一くさり彼らの話を観客に聴かせたあと、先程の女らと男がそれぞれの事情とタイミングでやって来る。ここで初対面となる2グループが小さな接点から微妙に絡み合い終いは大混戦を展開する。というのが本作である。その間、先のライター志望の女も話が面白くなるように、必死に嗾ける。後に彼女が述懐するように「自分は実際にあった事しか書けないらしい」ので、事実がそうなるよう懸命に火に薪をくべる。

    この舞台を興味深く感じた所以を考えてみた。またまた、と思われそうだが、別役実の舞台の味わいは、リアル(日常性)と異常が同居している事に拠り、不条理は日常の中に異常が正常の顔をして忍び入っている事にある。本作は言わばドタバタなるコメディだが、演技は心情的な根拠のあるリアルを目指しているので、「よく出来た笑える話」を観たという感覚より、異常にも見える展開をリアルな俳優の存在が正常の顔をして支えている、と感じる瞬間が多々あった。話のシュールさに私は心を掴まれる。作者の意図とは違うのだろうが、この感想は戯曲に対するものだろう。シュールでリアル、という感覚は、そのまま、現在の日本に重なりもする。物語そのものの行方もさる事ながら若干の破壊性を嗅ぎ取らせてくれたのが、自分にとっては収穫。作品の完成度としては作り手からすれば「余計なものを含ませてしまった」事になるかも、だが私はそこに価値あるものを見る。ただし狙って作れるものでもないのかも知れない。(考察はとりあえずここまで。)

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    2022/07/17 08:53

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