実演鑑賞
満足度★★★★★
12人の女陪審員たちが、犯人のサリー(大原櫻子)が妊娠しているかどうかを見極めるために一室に集められて評議をする。サリーもつれてこられ、女たちと対決する。後半、思いもかけない展開が次々起こり、すさまじい話になる。さいごは恐ろしさで、まさに息を持つかせぬ30分。
大原櫻子の鬼気迫る演技に圧倒された。生への執着、最後まで失わない誇り、遠く高い世界への憧れ、多くのものを体現していた。吉田羊をはじめとした12人の陪審員の女優陣も、さすが。それぞれにリアリティーがあった。上流婦人を演じた長谷川稀世が、いやみなく上流っぽさを見せてよかった。評決をめぐって吉田羊と対立する姿が格好良い。「世間」の良識派・多数派の代表として存在感十分だった。
女たちの「あそこが裂けちまったり」「欲望でどうしようもない」等々、えげつない言葉が平然と飛び交うが、いやらしくはない。しかし、普段は聞けない言葉にはドキッとする。また母乳が出るかどうかを試したり、膣口の診察など、たくましく想像させるのもドキドキする。
パンフレットで武田砂鉄が、この芝居は「世間」と「経験」に集約されると言っていた。処刑の見世物を求める「世間」の怖さ、自分の狭い「「経験」を振り回す愚かさ。その上に、さらに大きな金力・権力が、弱い者、貧しいものをふみにじる。社会の重層的な壁、重石を陰惨な場面を通して生々しく突き付けてくる。本当に怖い芝居である。
見終わって気づいたが、作者は「チルドレン」「チャイメリカ」のルーシー・カークウッド。これら3作が、題材も、作劇法も、舞台のつくり方も全く違っていて、いずれも傑作である。寡作のようだが、恐るべき劇作家だ。イギリスの現役作家ではマクドナーと双璧だろうか。加藤拓也の演出も見事。暖炉にカラスが飛び込んで、はじけるシーンなど、一瞬で舞台の床がすすだらけになり、本当に驚かされた。
2時間半(休憩15分込み)