実演鑑賞
満足度★★★★
若い演出者が野田秀樹の旧作を演出するシリーズの一つ。今回は古典から出てきた杉原邦生の演出である。
野田秀樹は古典演劇への造詣も深い。野田の戯曲は、過去から未来への長い人間の営みを壮大なスペクタクルに組み込む構造をとることが多いが、「パンドラの鐘」はその趣向がうまくはまった作品だ。古典への関心と造詣言う点では若い杉原邦生も同じだから、幕開き舞台を囲んで伝統舞台を想起させる横嶋の紅白の幕を切って落とすあたり、演出者の個性もうまく出している。
同じ戯曲だが、数年前に見た藤田俊太郎演出とも、かつて見た野田演出とも全く違う舞台が見られたわけだが、戯曲の本質は、当然とはいえ。変わっていない。しかし、見る時代によって観客は変わるわけで、ウクライナで戦争が起こり、きな臭くなっている時代に『水を!』と叫ぶミズオを見せられると、満席の客席には静かながらジワが拡がっていき、野田作品独特の感動の大団円になる。演劇の時代との切り結び方の実際を見せられた一夜であった。
俳優では片岡亀蔵が健闘。フェイクスピアでは危なかった白石加代子も復調。野田戯曲には初顔の成田凌、葵わかなもまずまず無難であった。