瀬沼さんのことを何も知らない 公演情報 ライオン・パーマ「瀬沼さんのことを何も知らない」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     オープニング。板上には大きな可動式カウンターを板中央辺りに観客席と並行に設置、人気ラーメン店のカウンターである。カウンターど真ん中に件の主人公がでんと構える。

    ネタバレBOX

    さて、どんな飛び道具となるか、期待すべし! ラーメン屋の客達は全員観客席を向いて座っている。
     カウンターを場面、場面で所定の位置に移動、例えば喫茶店の設定では上手奥に観客席に対して直角になるように設置される。板上は即ち基本的にはこのカウンターと箱馬4個その他衝立が幾つも配置されている。ホリゾントに近い衝立はセンターが開けてあり奥は回廊のように通行できる。箱馬の基本的位置は下手。キャバクラの客席として、或はタクシー車内シートとして演じられる内容に応じて自由自在に変容する。また下手袖には、シチュエイションに応じて暖簾が掛けられたり、出捌けとしても無論利用される。
     途中約10分程の休憩を挟みトータル140分程度。休憩前は幾つもの挿話がオムニバス形式で一話ずつ演じられてゆく。因みにLion Perm作品をこれまで観て来られた観客には、瀬沼氏が飛び道具として活躍してきた役者さんだということを御存知の方々も多かろう。前半の諸作品がこのような形式で演じられたのは今作で初の主演を演じる瀬沼を演じた瀬沼敦氏への恐らくは劇団からのオマージュと労いを込めた作品という側面があるからだろう。オムニバス形式で演じられた前半の各挿話に飛び道具に特徴的な演技が随所に見られたのは、こういった前史があるからである。無論各挿話にオチがついているが内容的にメインストリームを追いつつ形としては独立した体裁を採っているのも上記の理由が正しければ必然ということになる。
     休憩後はトーンが全く変わり通常のストレートプレイになるが、ややメロドラマ的要素が入ることを含めて脚本の作風がガラリと変わる点に注目したい。このように一風変わった作りになっているのは、上に挙げた理由からであり作品の必然的発展形態の1つがここで実現されている。
     ところで今作の表層で追及される謎の答えを正答するのは難しいことではない。それを正答して乙に居るのは野暮とおいうモノであろう。今作の本当に狙いはそのような所には無いように思われるからだ。では何処にどのような形であるのか? それは俳優たちの演技と観客達の反応の間に在る。即ちそのような演技と観客の反応によってメタ化されることを目指した作品だと解するのである。何故ならCovid-19で塗炭の苦しみを舐めた演劇人と演劇というアートに飢えた観客との交感や切なさの共有こそ今作が目指したメタレベルなのではなかったか? というのが小生の観方である。日銀のトップ、黒田が述べた言葉からも簡単に分かるように日本の組織のトップに真に頭の切れる人間は少ない。組織のトップに立つ事即ち「エリート」とは、本当の情報は上がってこないということを類推できない程度の頭脳しか持ち合わせない存在とイコールなのだ。このような「エリート」の下で塗炭の苦しみに喘ぐ庶民の哀歓にこそ、今作は立脚しているのであり、これは可成りの冒険であるが、劇団が観客を信じて投げ出した今上演のメタ化を観客としてしっかり受け止めてゆきたいと考えている。何となれば黒田のような「エリート」を利用して更においしい汁を吸おうとしている腹黒い為政者が少なくとも我らの上に君臨している権力者たちなのだから。‟飛び道具“と我らの苦悩や哀切を蟷螂之斧にしてはなるまい。

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    2022/06/09 16:20

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