リバーシブルリバー 公演情報 24/7lavo「リバーシブルリバー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     初日を拝見、脚本がやみ・あがりシアターの笠浦静花さん、演出は24/7lavo/feblaboの池田智哉さん。これは素晴らしいコンビネーションだ。華5つ☆ 必見

     約束の追記、手入れ稿をネタバレにアップ。

    ネタバレBOX


     舞台美術も凄い。この空間によくぞこれだけ詰め込んだ。客席はいつも通り。板上にはグリーンのカーペットが敷かれ小屋入口の左、劇場壁の手前側にパネルで仕切った空間を設け、この空間内には階段が設えられている。パネル手前には幅の狭い平台、是に直交するように通常の平台が置かれ、通常の平台上にはテーブル、スツール、ソファ、椅子等が置かれ、小屋入口の客席側には小型丸テーブル上にボードゲーム・オセロが載りテーブルを挟んで対局者用の小型丸椅子、奥の客席前にはやや小ぶりのテーブルの周りに椅子。物語はこの空間で展開するが、某大学の学生が多く寄宿するシェアハウスの共同空間というような設定だ。現在この大学に在籍する者8名、浪人1名が住人であり、住人の内の1名がシェアハウスオーナーの娘、娘は同じ大学の学生と付き合っており普段は同じ部屋で暮らして居る、この事実がこのシェアハウス最大のタブーである。
     ところで問題がある。オーナーは結構、風紀に厳しいことだ。若い男女が同じ建物で暮らしているのだから大人として当然のことではあり、増してその中に実の娘も含まれている訳だから時々様子を窺がいに来たりもする訳だ。
     このような条件下、とんでも無いメンバーが加わった。そのメンバーとは浪人生である。彼は自分の思うことと反対の表現しかできなくなることがあった。当初新入りの彼の不可解な言動の構造も原因も何もかもが分からなかった。そこへオーナーが来るという情報が齎された。新入り歓迎パーティーが前日行われていたこともあり、禁止されている飲酒その他違反事項諸々の他、娘の同棲生活も浪人生の言動によってバレルかも知れない。タダ同然だからこそ、東京で学生生活を送れる学生達は追い出されたら退学を余儀なくされるという危機感も手伝い上を下への大騒ぎ。オーナーの到着は着々と迫る。さて・・・というのが素直に今作を観た場合の展開ということになろう。
     然し、今作ことほどさように単純に非ず。笠浦さんクラスになれば、或はガイ・ドイッチャー辺りを読んでいるのではないか? 読んでいるとすれば、使用言語によって世界の見え方が変容してしまうという現代言語学の提起した極めて興味深いテーマこそ、今作の主眼と見るべきだろう。まして演出は池田さんである。この聡明な作家と負けず劣らず聡明な演出家のタッグが、今作をして実に見事な作品に仕立て上げた! 恐らく殆どの観客がラストを解釈不能と考える、善意に言えば観客に解釈を委ねたと考えるであろう。然し小生の意見は異なる。その根拠、論理的説明は終演後に明かす。小生がそのようなことを考えたヒントは、無論この段落に書いておいた。

    「リバーシブルリバー」追記 手入れ稿
     普通に物語の筋を追ってゆくと決して最終的な解は得られまい。Oui ou non.を決定し得るヒントは文字通りタイトルとボードゲームとして描かれている“オセロ”に先ずは見出すことができる。また最終盤で主人公・ハジメ(苗字天竜は天地の初めの世界に誘う)と通訳・ルナ(苗字が阿賀野なのは赤の他人等も想像させる)2人だけで話すときのルナの台詞「私も実は云々」と主人公同様の傾向を持つことをにおわせるシーン、更に常識的な判断を下すのであれば殆どタダの家賃で都心に暮らせる程の公共性を持たせたシェアハウスを運営する人物が、如何に娘・ユカリの為とはいえそんなにコスッカライ人物であるとも考え難い。厳しい~と先輩達が言い募るのは、新人に対する教育の一環と考えた方が良かろう。
     若い男女の共同宿舎である。住居のオーナーも社会的問題が起きれば矢張り責任追及されることも考えねばならぬのであるから。無論、他にもヒントはある。看護学を専攻する2人の女学生アミナ&カリンはリバーシブルなブルゾンを共有している。このブルゾンの明るい柄にはハジメの吐瀉物の跡がありありと見え、強烈な臭気さえ放っている。これら様々な示唆こそ、今作に埋め込まれたヒントなのであるから、これらのヒントを手掛かりとして今作を解釈すべきだと小生は考えた。即ち結論不明と考えた観客の多くは、今作の仕掛けに見事載せられ、深い霧の夜の遠海や原生林に迷い込んだ人々の如くあれこれ試したものの脱出できないどころか展望を持つことすらできずに迷う。言い方は悪いが迷路の罠に掛かってしまった。
     他方、今作を解釈し得たと感じることのできる解釈に以下のものがある。もうお判りだろう。作品そのものが、シェアハウスオーナーの厳しさという偽情報を根拠に仕組まれていたということだ。ラスト音声だけで表現される住人とオーナーのフレンドリーな状況はこのように解釈することで矛盾の一切ない、あっけらかんとした(底抜けの)逆転劇として担がれたことを知る。見事である! 余談ではあるが、登場人物総ての苗字が河川名に由来している、こんな遊び心も楽しい。
     ところで更に深読みをしたい向きには、以下の側面をも指摘しておこう。この段になって初めて看護学生2人の共有しているブルゾンの片側が暗黒を表す黒系であり、明るい柄には吐瀉物の跡と強烈な悪臭がまとわりついていたこと、而もこの事実は黒系の側しか見せないことによってずっと隠されて来たことの意味を見出すことができるのである。即ち一般に認められている社会規範なるものが実は酷く不可視的であり規範化されていることによって如何に多くの欺瞞や嘘、真実を隠蔽しているか、という事実である。つまり、今作は何をひっくり返したのか? という作品の真の目的と小生が考えるものである。上に挙げたブルゾンの機能が果たして小生の考える通りのものなら、ブルゾンのひっくり返しという韜晦を用い、もっと明瞭に示されたオセロによる全体ひっくり返し及びタイトルによる示唆という化粧迄施された全体ひっくり返しは、現代日本及びその住民に対する真摯な警告、もっと端的に謂えば強烈なアイロニーと解釈すべきである。
     ところで、この小論で小生が述べたことは本当は皆が分かっていることだ。そして自ら隠蔽していることである。

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    2022/05/28 00:53

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  • 池田さま、皆さま
     遅くなりましたが、手入れした原稿をそのままネタバレにアップしました。
    ご笑覧下さい。
                            ハンダラ 拝

    2022/06/02 15:37

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