実演鑑賞
満足度★★★★
小劇場系の短編ワンシチュエーション・ドラマを二本立てで見るという面白い企画だ。しかも再演、12年前の初演はそれなりに評価も得ている。現に見てもいる。舞台の出来もよかった。その時は、ほかに蓬莱竜太と鄭義信の二本もあって、1時間ものの二本立て,役者も総替わりで、日替わり、昼夜替わりで上演され当時としては話題にもなった勢いのある公演だった。主催は演出者のプロダクションだった自転車キンクリ―ツ。今回は興行会社。趣向は同じながら、赤堀作品は再演、マキノ作品は新作(初演の時の「ポン助先生」は山路和弘の快演もあって面白かった)である
短編と言うが赤堀作品は1時間半くらいあって、100人レベルの小屋だと一夜芝居だ。マキノ作品を合わせて2時間50分。中野の下町と言った富士見町のアパートの一室のドラマと言う条件が縛りになっている一幕もの二本だ。
十二年前の初演を見ているので、いつもとは少し違う感想になる。
劇のリアリティはずいぶん時代に左右されるものだと改めて思う。初演はバブル崩壊の後、沈滞の十年で世間がうんざりし始めている時期。バブルを味わえず知っているだけの世代が、どのエピソードでも中心で、そのドラマが世間の共感を得られた。タイトルがとられた松田聖子の「赤いスイートピー」を歌うだけで空気まで伝わった。座・高円寺の高い天井を生かしたセットはアパートの表から組んであったように記憶しているが、そういうアパートに住む住人と言うだけで共感があった。まだ昭和の出し物である「長屋モノ」が最後の残影を残していた。今回の俳優座劇場はこういう組み方が出来ないので、横に二部屋を組んでいる。それだけでずいぶん時代を感じる。この後、大震災が襲い、コロナの空白の年月があった。今の俳優たちには実感はないだろうと思う。それがどこという事はないが舞台に出ている。
第二部「フーちゃんのことでは、初演のころは代表的な国民スターだった中村雅俊が出ている。初演は関係ない。役どころはムショ帰りの詐欺師である。同じ仲間の半海一晃と十数年ぶりに会う設定になっている。マキノらしい愉快なコンゲームなのだがなぜか笑えない。
時代の生活感を土台にした現代劇の難しさを感じる。同時に意外な再演の効もある。
観客席も、初演時は同時代を生きる共感が舞台の上と下にあった。今の観客席は舞台の上よりもさらに年齢が高い。意外に若い世代は少ない。演劇が狭い世代のものとは思わないが、ナマモノだけにそこは逃れられないところか、と粛然となる。