実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/04/24 (日) 13:00
座席1階
千秋楽。王子小劇場は満席だった。前作の「病室」に続いて拝見。かなりきつく聞こえる茨城弁にはまだ、慣れないのだが。
さて、今作も丁寧な会話劇が繰り広げられる。家事など家のことはまったくやってこず、一方的に妻を怒鳴りつける昭和の親父。妻が入院したため長女が実家にやってきて手伝う、という状況からスタートする。
長男もその妻と実家にやってくるが、実際に毎日父を支えるのは長女である。食事作りなど家事全般がその長女にのしかかる。腱鞘炎にもなるわけだ。だが、そんな長女に父はどのように接してよいのかわからないのか、不遜な態度を取ったりする。
このお父さん、軽度の認知症ではないかと感じた。ただ感じただけだが、自分の一方的な思いをぶつけたり、何度も同じ言葉を繰り返したり。もし、認知症だからといってそれがどういうことでもないのだが、とにかくその会話の一つ一つが痛々しい。
妻は退院してくるが、入院時のリハビリがあっても足腰が弱り、支えがないと歩行が安定しない状態だ。それが何とも悲しく、現実感あふれる場面だ。そんな妻に手の一つ貸そうとしない夫。そんな弱った妻にどう対応していいか分からないのだろう。もう、見ていられないほどの悲しさを覚える。それは本当にありそうな物語で、自分の老親を思い出したりするとさらに胸が苦しくなってくる。
先人のコメントで「慣れていない人は退屈かも」と書いてあったこの会話劇。だがやはり、自分もそうだが、観客の中にはその会話が胸に刺さる人がいるのだ。前に座った女性はハンカチを握りしめて泣いていた。誰かが亡くなるなど悲しい場面があるわけではないが、このリアリティーあふれる会話のキャッチボールに胸が震えるのだ。もし、自分にとって慣れない茨城弁でなかったら、その思いはもっと強くなっていたかもしれない。
劇団普通の真骨頂はここにあるのだろう。何気ない、一見つまらないとも感じる会話劇が、実は演劇がテーマにすべき日常の機微を思う存分に描き出しているのだ。笑うところがあまりない分(笑っている人がいたが、これは老いを揶揄するセリフであった)、前作の「病室」よりシビアな2時間であった。