実演鑑賞
満足度★★★★
元帥夫人アンネッテ・ダッシュがすばらしかった。1幕終わりの、年齢による衰え(脚本の指定は32歳だけど)と過ぎ行く時間をしみじみ考える独唱は、作品のテーマを凝縮したもの。3幕最後の三重唱は、三者三様の諦念、喜び、戸惑いが、オーケストラと合わせ、妙なるアンサンブルになって響いた。
2017年の新国立公演、METライブビューイングに続く、3度目の観劇。
3度目にもなると、細かいところにも目が行く。1幕の朝の面会・陳情シーンは、元帥夫人の科白は二つ「(ゴシップもニュースも)知りたくない」と、「こんな髪型、おばあちゃんみたい」。貴族社会が去り行く時代に目をふさぎ、加齢を嘆く心情が、ここに端的に表れている。(大事なのは、長すぎる時間を、「どうやって」耐えるかなの、とこの後の独唱は歌う)
テノール歌手は、ベルカント・オペラへのオマージュであるとともに、風刺。オックス男爵の癇癪で中断するあたりは、とうじのウィーン社会(もっといえば流行)から、イタリアオペラなどもう古い、という宣言のようにも見える。寄付を求める孤児たちは、戦死者の子というから、戦争も背景にある。
オックス男爵を妻屋秀和がやった。時代遅れの帰属意識の滑稽ぶりを強調する演技が、非常にコミカルで分かりやすかった。なじみのある日本人歌手がやったからこそ、(ドイツ語でも)日本の観客に一層わかりやすかったともいえる。最初予定した歌手の都合での交代だったが、怪我の功名であった。
とくに3幕最後の三重唱、二重唱がよかったこともあり、カーテンコールはいつもの倍近く長かった。お義理でなく心からのスタンディング・オベーションも多くみられ、客席の満足度は高かった。4時間10分(休憩込み)予定のところ、終わってみると10分以上延びた。スコアがあるし、テンポも特に遅くしたと思えないが、どこで予定と違ったのかは不明