満足度★★★★
生きることへの切ない思いが、汗と爆笑の中にひたひた満ちる
MCRの作品を観るのは、プロデュース公演などを含めておよそ8作目となりました。『シド・アンドウ・ナンシー』は、私が観た中で一番完成度が高かったように思います。昨年の「CoRich舞台芸術まつり!2008春」参加作品『シナトラと猫』で気にかかった舞台美術や転換時の演出についても、今作ではライブ感・手作り感が生きており、いわばスタイリッシュな見どころにもなっていました。
生きることも死ぬこともどうでもいいと思っているヤクザの安藤(中川智明)。急激に太り続けて死に至るという不治の病に冒されたたっちゃん(辰巳智秋)。2人が親友同士だった高校時代の回想シーンを交えながら、状況は違えども互いに死を目前にした2人の男が、命に、人生に、どう決着をつけるのか(決着など訪れず死が彼らをさらっていくのか、それとも…)が描かれます。あらすじだけだと深刻な悲劇のようにも思われますが、実際は爆笑・失笑づくしで、ロマンティックな恋愛のエピソードもありったけ盛り込まれた娯楽作品でした。
作・演出・出演される櫻井智也さんが書かれるセリフは、小劇場ファンの間で“櫻井節”と呼ばれることがあります。笑いすぎてお腹が苦しくなるほどのギャグに、世間に対する主張がしっかりと織り込まれていたり、粗野で乱暴に聞こえる言葉に、恋のときめきや切ない思いがしたためられていたり。
組み体操をしたり、本気で(?)叩いたりなど、生々しいハプニングを盛り込んだ見世物の要素も、大いに生かされていました。客席が2方向からはさむ対面式のステージなので、役者と観客との距離がとても近いのです。しかもコントではなく、演劇的な魅力に昇華させているのが素晴らしいと思います。
ポスト・パフォーマンス・トークは制作の方が司会進行して、観客から事前に質問を受けつけるシステムを採用。赤裸々な劇団内トークを見せるスタイルがお好きなお客様もいらっしゃるかもしれませんが、私は『シナトラと猫』の時よりも濃い内容になって、改善されたように感じました。
劇中で使用された缶ジュース型のおしるこが、ロビーでバラ売りされていましたので、1本購入。寒い季節になったら飲みます(笑)。また安藤たちのことを思い出して、しみじみ笑いたいと思います。