花のゆりかご、星の雨 公演情報 時間堂「花のゆりかご、星の雨」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    肌で感じるように伝わる物語
    空気の硬さ、やわらかさ
    心のかたくなさ、広がり、癒し

    全てをべたに表すのではなく
    大切なものを
    水彩で繊細に描いていく感じ

    空間に浸潤されるなかで
    肌で感じるように物語がしっかりと伝わってきました。

    ネタバレBOX

    前半の骨董屋さんでの顛末、
    役者達の演技からお店の雰囲気がヴィヴィドに浮かんできます。
    仕草、視線、音、扇子の動き、それぞれがしっかりと観客を捉えていきます。

    淡く確かな光景のなかで
    役者達の想いや熱が
    しなやかにくっきりと観客に伝わってくる。

    しかも明確であることが余韻を殺さないのです。

    たとえば古道具屋の手違いで他の人に渡ってしまった
    ソムリエナイフが戻るのを待つミキと対応する店員との空気が
    紅茶の香りのなかでゆっくりと変わっていくシーン。
    バイト店員を演じた星野菜穂子の滑らかなテンションに
    花合咲が演じるミキの心が少しずつほどけていくところがすごく良くて・・・。

    そのトーンが菅野貴夫と雨森スウが演じる古道具屋夫婦の空気と違和感なくマージしていきます。するとひとくせありそうな近くのレストランのシェフを演じる鈴木浩司が馴染む居場所がそこに生まれて・・・。5人の役者達の色がぼけることなくその空間でひとつの色をかもし出すから、後半の幹の旅に導かれる成り行きにも不思議と無理がないのです。

    ソムリエナイフの記憶。星野が演じるミキの祖母と雨森が演じる母親の確執。祖母が母親を思う心と母親がミキを守ろうとする気持ち、それぞれの想いがミキの視点を凌駕して生々しいほどに観客を包み込む。鈴木が演じる朴訥としたミキの父の想いも本当に秀逸。

    さらに戦後混乱期の菅野演じるミキの祖父の祖母との再開へと物語が導びかれて。凛とプライドに心を隠す祖母の姿。そんな祖母への祖父のまっすぐな愛。ソムリエナイフに刻まれた兎の由来が語られて・・・。

    まるで仕付けられるようにつながれた3つの時代、祖母ー母ー幹それぞれがもつ、どこか言葉足らずで片意地で、でも真摯に相手を思う気持ちのあたたかさが時代の重なりのなかで浮かんできます。

    母と重なる「臭覚」の才能だけでなく、その生き様や想いにミキと祖母や母の血のつながりを醸し出すところ、旨いなと思う。

    最後の歌の響きが、やわらかく心を揺らします。いくつもの旋律の美しい重なりに、満たされた不思議な気持ちが降りてきました。

    この作品、WIPも見せていただいて、そのときから役者の方から伝わってくる思いには心惹かれていたのですが、本番では個々からやってくるものに浸潤されるだけではなく、全体が醸し出すふくらみのようなものに圧倒されました。前半の空気がWIPのときより細やかになっていて、その分後半にソムリエナイフがミキの心に満たしたものが、より豊かに伝わってきたようにも思えて・・・。

    終演後、拍手をするとき、べたな言い方ですが、すごく優しい気持ちに満たされていました。

    公演の終わりにもう一度観にいこうと思います。
    すでに間違いなく魅力的な作品だけれど、さらなる色が感じられるような気がするのです。

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    2009/06/05 17:48

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