花のゆりかご、星の雨 公演情報 時間堂「花のゆりかご、星の雨」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    命と時とモノが危うくも繋がり、危うくも続く
    たぶん作者が言うところの「ふつう」の感じで、まったく無理なく舞台は進行する。
    無理なはずの内容も、「ふつう」に見えてしまう。
    そういうマジックが、やさしくやって来る。

    ネタバレBOX

    アンティークショップが舞台。取り置きの商品を女性が受け取りにくるのだが、手違いで別の人に売られてしまう。その商品(彫刻のあるソムリエナイフ)を巡る、母娘三代の途切れそうだった命の繋がり、親子の繋がりが、危うくも繋がっていく様子を丁寧に見せていく。

    たとえ血が繋がっていても、いったん途切れてしまえば、おしまいになってしまう。それを繋げていくには、タイミングとどちらからかの働きかけが必要なのだ。しかし、それはわかっていても実際にはなかなか動けない。特に肉親だからこそ。

    前半のアンティークショップでは、いろいろなエピソードが多く盛り込まれている。このままこんな感じで進むのかと思い始めた中盤から、ぐるっと話が展開する。

    なるほど、前半の日常をきちんと描いたというのは、この後半の、三世代を遡るという非日常的な内容を、あまり突拍子もないことに見せないためだったのか。
    実際、劇中でもスピリチュアルと言っていた展開だったのに、さほど違和感を感じなかった。
    ふつうと地続きの非日常。

    「ふつうの、すごい演劇」というのはこういうことなのか。

    それは、前半の日常を描いたことだけではなく、扇子をコップや傘に見立てたり、暖簾や、ショーケースや修理している椅子まで、実際のモノ自体を使っても問題なさそうなものまで、すべてモノがない状態で演じるという演出によることも大きくかかわっているのだろう。特に花柄や破けた黒い布の使い方とイメージのさせ方はいいな!
    こうした観客へのイメージの委ね方で、「ふつう」さは補強され、またさらに、観客としてはそれをしっかりと受け止めようと、より舞台に集中するという効果もあるのだろう。

    効果音と音楽は役者がその場で作るのだが、その音と、無音の舞台の中に響く、外の自動車や山手線の走行音は、劇中のアンティークショップがある、街中をイメージするようで逆に生きた効果音だったように思える。花屋のシーンでも同様。

    母と娘の確執は、具体的にはどんなものだったのかは示さないが、母親を「あの人」と呼んでいた娘が、母になり、その娘から、やはり「あの人」と呼ばれているのは哀しい。
    ただ、同性の親子であること(特に女性同士)による、ドロっとした関係みたいなものがなく、意外のさらっとしていたし、最後の納得も実にあっさりした印象だ。

    これは勝手な思い込みなのだが、女性の書き手が同じ内容を書けば、「母娘」の関係だけに、誰かの何かを犠牲にしても、痕が残るような何かがあったのではないかと思った。
    であれば、作者が自分目線で、つまり、息子と母親の愛憎目線で描いたら、まったく別の世界が拓けたような気がするのだが、そういう、一見、赤裸々な感じは作者自身の好みではないのだろうなぁとも思った。全体の雰囲気とも違ってきそうだし。

    客として店を訪れた女性は、自分の母や祖母の、途切れてしまいそうな縁や命が、危うくも繋がっていく大切な場面に立ち会う。そこにはいつも自分が取り戻したソムリエナイフがあった。しかしそれを見た女性が、自らはそれに頼らず自分のみで向かうという決意には力強さを感じた。

    ナイフという、モノを切り離す道具が、結果、人をつないだり、つなぎ止めるような場面の需要な要素となっているスパイスの効かせ方は、なるほどと思いつつも、よく考えると、劇中のソムリエナイフは、モノを切り離すというより、ワインを開けて、人が集うという意味もありそうなだけに、おしゃれすぎるかも(笑)。
    ソムリエナイフだから、ワインを開けてしまえば、飲まざるを得ない(前に進まざるを得ない)という状況になるということもかけているのだろうか。ていうか、考えすぎか。

    アンティークショップの主人とその妻の関係と、また命の繋がりがさらに続くといのも、とても好ましいと感じた。

    ラストの歌には、単純に思わず涙してしまいそうになった。

    ちなみに、劇中で飲まれる紅茶どんな味なのか気になったのだが、実際に劇場内で飲める。結構強烈な香りと味わい。300円也。
    前半は、紅茶の香り、後半は花の香りがするといいのにと、紅茶を飲みながら思った。ま、実際には無理だと思うけど。

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    2009/06/05 01:52

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