天気のいい日はボラを釣る 公演情報 studio salt「天気のいい日はボラを釣る」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    人生への応援歌
     横浜を拠点に活動し、神奈川県では根強い人気のある劇団の東京進出公演。東京と横浜と言えば近いと思われるかもしれないが、メンバー全員、東京のホテルに宿泊しながらの公演ということで、やはり、その苦労は並大抵ではないと思われる。それでも東京進出を図ろうとする劇団の志しと意気込みが作品に溢れていた。

    ネタバレBOX

     オープニングはのどかなシーンで始まる。題名どおりの天気のいい日にのどかにつりをする初老のしげさん。通りがかりの人が優しく声をかける。みんないい人でみんな幸せそうだ。平和を絵に書いたようなシーンだ。ところが後からわかることだが、この冒頭シーン、実は様々な問題を抱える登場人物たちの、想像上での幸福シーンなのである。

     現実には登場人物の全てがそれぞれの問題や悩みを抱え、今はホームレスとなったりしている。自転車で日本縦断を目指す人なつっこい好青年が登場する。この青年だけは他の人と違い幸せそうだと思ったら、実は不治の病に冒されているということがわかる。今の時代、問題を抱えていない人などいないのだ。

     そういう人生の厳しい現実をしっかりと描き、そして将来の希望や夢を安易に提供するのではなく、この現実から抜け出すことは出来ないかもしれないが、それでもこの現実を肯定しようという前向きな姿勢の作品なのだ。しげさんは仲間にこう語る。今までの人生を振り返っていいことだってひとつやふたつあったろ?これからだっていいことがあるかもしれないぞと。

     うまくいかない、どうしようもない人生だけど、天気のいい日もある。ボラという魚は臭くてまずい魚だと思われているが、それは汚染された海のせいで、本当は鯛よりおいしい高級魚なのである。そのボラに登場人物を重ね合わせて、今はみすぼらしい生活をしているが実は心豊かな人たちなのだということを作家は描いている。心温まる人生への応援歌だ。

     ひとつひとつが上質な手作り感があり、役者の動き、台詞、目線、そのひとつひとつが計算された上で、実に自然なのだ。しげさんがブルーシートに釘を打つシーンがあるが、その釘を打つということだけで、背負ってきた人生の悲哀と、これからの不安、それらを振り切って強く生きていこうという決意などが、見事に表現されている。そういったシーンがたくさんあるのだ。食事のシーンもそうである。ただ、食べるというだけで、それぞれの人生を表現出来るのである。素晴らしい演技であり、素晴らしい演出だ。

     派手さはないが、しぶく光る劇団である。本物志向の人たちにはたまらない劇団である。

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    2009/05/24 23:47

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