実演鑑賞
満足度★★★★
翻案ものだが、ブレヒトの原作の筋をほぼ踏襲している。19世紀のロンドンの話よりも戦後の東京のほうが身近で、この設定は成功した。天皇の行幸が重要な話の要素になっている。これは創作かと思ったら、原作も女王の戴冠式のパレードがあるという話だった。絶妙な符合で、びっくりである。一番の違いは進行係(磯貝誠)をつけたところ。各章の内容をはじめに掲げる代わりに、進行係がうまく話を繋げていく。進行係が開けしめするカーテンのようなブレヒト幕も、スピーディーな場面転換でよかった。
ギャングのボスのメッキースこと牧村(大宜味輝彦)が、はじめは存在感が薄いが、牢屋に入れられ、脱獄し、また捕まって絞首台…という展開で、だんだん主役らしくなる。ブレヒトは彼を、ブルジョア=市民階級も一枚かわめくれば、強盗と変わらないというつもりで書いたらしい。ただ、原作もそれほどブルジョアっぽくは見えないし、今回も、そういう「異化」効果は希薄だった。ただ、あまり露骨にやると、説教臭くなる。分かる人にはわかる、というほのめかし程度だから、初演当時大ヒットし、今でも演じ続けられているのかもしれない。
主役以上に、何より良かったのは女たち。乞食の元締めの娘ポリーこと美智子の須藤沙耶はピチピチと輝いていた。いつもの雰囲気よりもスマートで、意志的で情熱的。母親のいまむら小穂も、憎めないしたたかさがあった。情婦のジェニーこと明美のみとべ千希己は、男っぽくさえも見えるほどの図太さで、牧村を裏切るしたたかさを演じていた。歌もうまい。
テーマ曲ともいえる「マック・ザ・ナイフ」のメロディーが何度も繰り返され、耳に心地よかった。
休憩10分含む2時間半。