実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2021/12/18 (土) 14:00
座席1階
人は自分が生きてきた人生に意味を求める。どんな人生でも、それが自分にとって、あるいは世の中にとって意味のあるものであったか。これは劇中のせりふでもあるように、人間の根源的なものであろう。舞台は、このように世間一般的に考えられている「生きる意味」を逆手に取るようにして、生きる意味とは本当は何なのだろうかと問いかける。異色の傑作である。
舞台は平均寿命が50歳にまで低下した近未来の日本。超高齢化の今では想像しにくい社会だが、物語では日本人が短命化することで人口が減少し、格差が増大するという世の中だ。ゴミだらけでホームレスがあふれる新宿・歌舞伎町。「貧困化が進み女を買う男が消え、風俗店が壊滅した後にホームレスが住み着き、そのうちの一人が今回の主人公となる。一方、格差の対極にいる著名人の大金持ちたちは、短命化日本で自分の生きた意味を残そうと、死ぬときに「美しい価値ある人生の物語」をニュースで読み上げてもらうために「美談作家」に大金を支払っている、という組み立てだ。ホームレスの一人が美談作家に成り上がり、その行く末と破滅を描いていく。
設定は荒唐無稽に見えるが、実にリアリティーがある。また、歴史の針を逆回転させていくような象徴的な人物が登場するのもおもしろいし、自分には「歴史の教訓を学べよ!」と現代日本に鋭い視線を浴びせてきているようにも感じた。人が自分の人生に意味を持たせることを突き詰めていった結果、何が起きるのか。ここに劇作家高羽彩の強烈なメッセージが込められる。
舞台回しというか、主人公の妹で声を失った女性の役で、舞台手話通訳が見事な演技を見せる。単なる手話通訳ではなく、登場人物の一人として立ち回る。今回、脚本の妙で、それが非常に自然な形でステージに溶け込んでいるのがいい。聴覚障碍者もそうでない人も「通訳」でなく「役者」を見るという形になっていて、障害の有無にかかわらず同時に舞台を楽しめる。ただ、そうは言っても役者をやりながらの通訳だから、それを補うためにタブレットを貸し出してせりふの字幕を座席で見ることができるという配慮もなされていた。バリアフリー演劇の進歩系として一つの成果を出して見せた。