ぶっかぶか 公演情報 ここ風「ぶっかぶか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    メチャクチャ面白い。超満員の客席、高いリピート率、もっと大きな箱でやっても良いのでは。口コミの熱気に嘘が無く書かれた言葉の通り、喜劇としてもかなり笑える。登場人物一人一人のキャラへの描き込みが半端なく、普通の舞台なら「この人主演で一本行ける」ネタを惜しげもなく何本もぶち込んでいる。帰り道、観客達の幸福な会話が下北に溢れ返る光景。「舞台って面白いなあ」としみじみする。
    タイトルの『ぶっかぶか』とは、サイズの合わない大きすぎる外的自己を押し付けられてどんどんストレスが溜まっていく内的自己のことであろう。

    舞台は妹夫婦の経営する小さなペンション、そこに居座る兄のエピソードからスタート。兄・牧野耕治氏は西田良や郷鍈治を思わせる強烈な風貌、ズカズカ無神経に振舞う口上は近田春夫を思わせる。妹夫婦は矢鱈巨大な香月健志(かつきたけし)氏と本格的なカーフキックを見せる天野弘愛(ひろえ)さん。兄と妹夫婦の遣り取りがモロ『男はつらいよ』で、「この駄目な兄の話だな」と思わせるが実は全然違う。そこを訪れる宿泊客達の抱えるエピソードは予想もつかない突拍子のないものばかり。圧倒されつつ、人の想いの織り成す不思議なハーモニーにじんわり浸されていく。

    漂泊民、三谷健秀(たけひで)氏のキャラは一本の映画のようで、よくもこんな人物を創造出来たものだ。日本人離れした雰囲気は外人が演じているのか?とも思った程。浅井健一の詩のような人物像。

    ネタバレBOX

    牧野氏の催眠術動画をYouTubeでたまたま観た、物置会社の社長(斉藤太一氏)がおかしくなってしまう。心配した兄(後藤英樹氏)が牧野氏の居場所を突き止め、弟を連れて会いに来る。
    実はこれは逃げられた女房に向けて撮った動画で、「催眠を解く」ことを伝える内容。(プロポーズの時、照れ隠しで「俺と結婚したくなる」と催眠術をかける真似をし、女房はかかった振りをした)。離婚届を置いていなくなった女房に、「催眠術を解いたから自由になっていいよ」と伝える為の動画が、偶然斉藤氏の潜在意識に反応し彼を外的自己から自由にしてしまったのだ。斉藤氏の時折狂い出す(”世界のナベアツ“風味)シリアスな演技に必死に笑いを堪える面々の顔。宅麻伸に似た後藤氏。斉藤氏と後藤氏の愛憎入り混じった兄弟の物語も胸を打つ。

    余談だが黒沢清の傑作『CURE』は萩原聖人が人々にストレスから解放する催眠をかけて回る話。かけられた人々はストレスの要因を殺し、救済(CURE)に至る。人によってその要因が愛する家族だったりするところが黒沢清の鬼才たる所以。

    クライマックス、ペンション夫婦の妹、斉藤ゆきさんとその亡き親友の双子の姉(はぎこさん)との対話は名シーンに。親友は一年前、社員旅行の火事で焼死し斉藤さんは会社を辞めた。妹が命を懸けて助けたかった友達に興味を持ち、独り墓参りする斉藤さんを墓地からずっとペンションまでつけてきてしまう姉。妹とその友達が二人で見上げた満天の星空。姉は全てを理解し帰っていく。複雑な感情を丁寧に重ねた斉藤ゆきさんの名演。彼女にかなり見覚えがあるのだが思い出せなかった。

    作・演出で1シーンだけ登場(助六を食うだけ)の霧島ロック氏。才能に溢れた巧い脚本、見事。

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    2021/12/11 14:27

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