実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2021/12/08 (水) 18:30
名曲「ホテルカリフォルニア」の名に魅かれて劇場へ。結論から言うと、この名曲と今回の戯曲に直接の関係はない。しかし、この曲だけでなく当時の日本ポップスなども舞台ではふんだんに使われ、1970年代に「青春」(今は死語かも?)を過ごした元若者たちのツボを打ち抜く楽しい舞台だった。自分的にはチューリップの名曲に泣きそうになった。
作・演出の横内謙介など劇団オリジナルメンバーがつむぐ、劇団創設前の実話をベースにした青春グラフィティー。当地の進学校である県立厚木高校の演劇部(扉座のメンバーも所属)が全国大会で活躍したことも触れられているが、舞台で繰り広げられるのは文化祭の後夜祭でいかに盛り上がることができるか、青春の思い出を作りたい、という若い情熱が物語の中心である。
まったく同時期に高校生だった自分にとってはずばりストレートの直球という舞台だ。あの頃はやった「マジソンスクエアガーデン」のバッグ、受験勉強の定番である「赤本」。神奈川県では「出る単」と言っていたのか(自分の出身の愛知県では「しけ単」と呼んだ)「試験に出る英単語」という受験生のバイブル本。地元各地区の中学の優等生だった子が集まった進学校で、上には上がいると打ちのめされたあの頃。東大を頂点とする受験レースが象徴する学歴社会への疑問。生きるとは何かと沈思した時間。そして、校内で男子生徒が回したエロ本(舞台では「プレイボーイ」だったので、エロ本とは言えないかも)。こうした小道具、多彩なエピソードが40年も前の自分を鮮明に浮かび上がらせた。
受験勉強が第一と指導され、それを受け入れざるを得ない生徒たちには、文化祭で盛り上がるということですら「勉強しなきゃなのに」と罪悪感を覚える。そんな中で愚直にも、当時のディスコダンスで爆発しようぜ、としらけ世代を鼓舞する生徒会メンバーたちがなんだかとてもいとおしい。
田舎者の自分にとっては、歌舞伎町のディスコなど話に「そうだげな」という与太話でしか知ることができなかったが、神奈川は田舎とキャストは言うが、小田急線一本で新宿まで行けたというのはやはり、そこでの高校生の文化が変わってくる。実際にディスコに行っていた生徒はさすがに優等生学校だけあって珍しかったようだが、舞台上で繰り広げられる「サタデーナイトフィーバー」「ジンギスカン」には、「神奈川の高校は大人への扉が近かったんだ」と感じてしまった。愛知県から新宿は新幹線で行かないと無理なのだから(笑)
この舞台は90年代後半からの再再演という。小劇場志向の劇団が40年も続くのは慶賀の至りであって、まさにこの舞台、還暦近いおっさんたちが高校生役をやるという、横内氏も言っているように「もう最後の機会」なのだろう。それだけに力が入っていて、熱量も高い。扉座研究生たちの若手も力を発揮した。
オリジナルメンバーの六角精児が開幕前からDJを務めるのも楽しい。これだけの完成度の舞台なのに、空席が目立ったのはもったいない。還暦前後の善男善女、この舞台を見ないと一気に老化が進むぞ!