鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】 公演情報 ニ兎社「鴎外の怪談【12/16、12/19、12/25公演中止(12/19は1/30に延期公演決定)】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    森鴎外(松尾貴史)をめぐる明治綺譚だ。明治最後の時期、明治43年(1910年)の冬から翌春まで。鴎外は、軍医総監に出世し、文豪の名声も上がっている。若いころからの友人の弁護士平出(淵野右登)や三田文学に推薦した永井荷風(見方良介)などに囲まれ栄達の日々を送っているように見えるが、家では二度目の妻 しげ(瀬戸さおり)と実母(木野花)の嫁姑戦争のただなか。三人目の子どもも生まれようとしている。紀州からきている女中(木下愛華)は文学女中。
    いかにもの、明治もの風情だが、ちゃんと今につながるテーマがあり、そして何よりも面白く組んである芝居なのだ。
    舞台は鴎外の観潮楼の書斎。幸徳秋水の大逆事件がいよいよ結審を迎えようとしている。今春には、チョコレートケーキの古川健「1911」という大逆事件を素材に開いたすぐれた舞台があったが、こちらは、同じ事件をまた別の視点から見ている。
    陸軍部内でも出世を遂げた鴎外は元老の山縣有朋にも直接意見を言える会議にも出席できる。大逆事件についても、でっち上げと分かっていても、天皇制専制国家を守るためには事件化するのはやむをえないのではないか、とも思う、いずれ医者の立場では、という逡巡もある。そいう言うジレンマにある鴎外を作者は家庭の中にある若いころには女でしくじった一人の中年男性、との立場とダブらせて巧みに話を進める。
    もちろん歴史考証はされているだろうけど、鴎外が持ち込んだ洋書で西洋の自然主義を周囲は感化されていて、妻のしげが鴎外の「半日」に対抗して「一日」という小説を書いていた、とか、荷風がここで戯作者として生きる決心をする、とか、女中が大逆事件に連座する紀州の医者の元患者で同じく連座する紀州の西洋食堂で知ったデミグラスの味に鴎外が感心する、とか、この作者らしい愉快なエピソードをたくみに芝居に組みこんでいる。
    戦後、いくつかの時代の節目に「大逆事件」が演劇で取り上げられるのは、そこに極めて日本的なさまざまな問題が隠れているからで、政治史、社会史的なアプローチを超えて、演劇にも幾つもの秀作がある。その中で、この作品は事件から少し遠いところにいた一人のインテリゲンチュアの姿を描いた秀作である。そのタッチがこの作者らしい時代との距離の取り方にも表れていて、しばらく、「事件モノ」で過ごしてきた作者の復調がうかがえる。
    少し内容のことを書きすぎたが、この舞台、俳優のキャスティング、絶妙である。初演〈2016〉からすっかり顔ぶれを入れ替えたというが、それが成功して、リアルとカリカチュアの微妙な間合いが取れている。松尾、池田の軸になる二人はもとより、瀬戸さゆり、木野花の嫁姑、もいい。べたつきやすいところを今風に軽く深く演じている。モデルが実在するのでやりにくかった若い助演陣(見方良介 淵野右登 木下愛華)も事実に余りとらわれず、しかも観客が納得できる。今年の演劇賞でどこを上げられても素直に喜べる出来である。


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    2021/11/24 11:15

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