とりわけ眺めの悪い部屋 公演情報 ピンク・リバティ「とりわけ眺めの悪い部屋」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ■約120分■
    若くて美しい地縛霊が住み着いているマンションの一室を舞台に、家主である映画青年と部屋に出入りする二、三十代の男女七人が織り成す群像劇。主人公の映画青年が女幽霊と同居しているという設定があまり生かされていない気がしたものの、劇中人物たちのキャラクターの切り分けがとても上手くなされているため、痴情が複雑にもつれ合う男女群像劇としての面白味は十二分。

    ネタバレBOX

    友達も恋人もなく、脚本コンペに応募するための作品を書く書くと言いながらなかなか書こうとせず、裕福な実家からの仕送りとたまにやるウーバーイーツのバイトで生計を立てている、幽霊さながらに“死んでいるような”映画好きな青年・津野一郎が主人公。今は映画本の編集をしている大学時代の映画サークルの先輩から「書いてみない?」と誘われて映画ライターとなり、編集室代わりに使われ始めた広めの自室に出入りする編集者やライター、映画監督と交わることでやっと“人間らしく”生き始め、遂には女性編集者と結ばれるまでが描かれる。
    性別問わず多くの人間が出入りするその部屋では男女間のトラブルが相次ぐが、そんな中、一郎は桜井琴子という編集者とちゃっかり愛を育み、二人が新生活のために女幽霊・夏子を残して部屋を去り、劇は終わる。
    一郎の結婚相手となる桜井琴子は、一郎の部屋に出入りする面々のうち唯一、夏子の存在に気づいており、一郎と違って見ることはでないまでも、夏子の気配を感じることはできるという設定。一郎以外で夏子を唯一感知できる人間が、夏子が人間と幽霊の垣根を超えて淡い想いを寄せていた一郎と結ばれるというのはなんとも因果な話。一郎に対する夏子の恋心は終盤のモノローグでそれとなく明かされるが、その淋しげな口ぶりは今も耳に残っている。
    この女幽霊・夏子は、いかにもオバケオバケしている昔風の幽霊ではなく、見た目も生活様式も人間とほとんど変わらない、なんなら、流行りの配信動画の話を一郎と交わしたりもする、今様の幽霊。なぜ死んだのか、生前どんな人生を送っていたのか、そのあたりのことも一切語られないために幽霊感はほぼなく、気絶させて人間に乗り移れるのが、唯一の幽霊らしい特技。ただ、この能力もそう頻繁には用いないため、物語にはほとんど影響をもたらさず、狂言回しとして物語を補足するのが主な役割。また、ダメ人間・一郎の保護者的な役割も担っており、劇の序盤では脚本を書かない一郎を母親のごとく親身になって叱咤。ただ、一郎が映画ライターとして一人前になってしまうと保護者として振る舞う機会も減り、その存在感は幽霊のように(?)薄まっていく。最後は一郎と琴子の門出を見送り、その有りようはさながら神父のよう。夏子という超常的な存在が二人の結婚に承認を与えることで、その結婚はどこか崇高な色合いを帯び、運命的なものに感じられた。もし夏子という幽霊の存在がなかったら、本作は奥行きを欠き、通俗的な男女群像劇にとどまっていたことだろう。
    それにしても、一郎はなんといい女を妻にしたことか。朴訥で不器用ながら、口を開けば割愛サッパリ、ハキハキとしゃべる琴子のような女性はモロ筆者好みで、少し嫉けてきた(笑)。あの朴訥で奥ゆかしく、それでいてサッパリハキハキした感じは、演じ手である大西芳礼さんの地なのだろうか?

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    2021/11/18 07:33

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