セイムタイム,ネクストイヤー 公演情報 演劇企画イロトリドリノハナ「セイムタイム,ネクストイヤー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     ベシミル、脚本が抜群。役者さん熱演!(華5つ☆)追記2021.12.22

    ネタバレBOX

     原作はアメリカのバーナード・スレイド、今作では途中10分の休憩を挟んで2部構成。下手手前の壁際に三面鏡付の化粧台、その上手やや上部にダブルベッド、ベッド頭部には作り付けのテーブル、電話機等が置かれており、その奥ホリゾントにはドア、この中間にクローゼット。部屋の奥中央辺りから上手に掛けて窓、その向こうはベランダ。上手側面にもドアが在りその奥はバス・洗面所。このドアのある壁面客席側には暖炉が切ってあり暖炉奥に家具。
     18歳で初産を経験し高校を中退したドリスはその後更に2人の子宝に恵まれたが、偶然レストランの端の席に座っていた男と運命の出会いともいえるような会い方をしてしまった。ちょっと不思議な出会い方であったのは、端の席に座っていた者同士の出会い方というシチュエイション自体が少し突飛なことでも想像できよう。ところでこの運命の出会いの相手男性も既婚者であった。2人は逢ったその日の内に同衾した。男の名をジョージという。会計士である。アメリカの中流に属する階層の1つだが、男の時計は3時間25分も進んでいる。正確な時刻に修正するのは会計士という職業柄全く苦にならない。口癖は「数字は嘘を吐かない」である。ところでジョージは当初、小さな嘘をいくつも吐いていた。妻がこの浮気に気付くことを警戒していた為である。ドリスにとってジョージという名も本名か否か同衾時には不明になる。というのも妻の名を当初誤魔化していたからである。数字には強いが、どういう訳か妻の直感を信じるという非科学的なげんを担いだりもするちょっとナイーブな矛盾を持ち合わせた男だ。一方のドリスはイタリア系、カソリック系の高校に通っていた。卒業生の半分はシスターになるという高校である。出産、子育ての為高校は中退したものの、未知の世界に対する好奇心や探求のインセンティブは高く中々のしっかり者である。2人は毎年同じ時期の週末、同じ場所で逢うようになる。
     少しだけ今作の背景を説明すると物語が展開するのはカリフォルニアのコテージの一室、時期は1950年代初頭からの四半世紀だ。(この土地柄の設定も開放的で自由なカリフォルニア州の在り様をキチンと織り込んでいる)アメリカはピルグリム・ファーザーズが英国教やローマンカソリックと対立していた歴史もある国であり、未だに宗教が人々の思考に大きな力を持つ国で、而も多民族国家なので白人対有色人種との差別・被差別問題のみならず、白人同士でもカソリック系はJFKが大統領になる前迄は差別されていた。(というのもケネディー家はカソリック教徒の多いアイルランド系)またドリスはイタリア系(イタリアもカソリック系の国だ)なので白人系とはいえ様々な事情を抱えていたに違いない。
     前半ではジョージが会計士で社会的には所謂中流層であり数字には強いので時計の針が3時間25分も進んでいる(この件は、後半の大切な伏線の1つ)のを瞬時に正しい時刻に訂正することが極めて容易にできること、そんなに数字に強いのに、変にゲンを担ぐ傾向があることや妻に密会を悟られることを恐れる点などは前述の通りだ。一方ドリスの魅力には直ぐ反応してしまう身体傾向等ちょっと軽めのギャグや恋人同士によくある小さないざこざ、ドリスが高校を卒業したことなどが埋め込まれるが、後半では高校どころか大学に入学したドリスがイッピ―のような左派系知識人に変容しファシストに急変してしまったジョージと大喧嘩を始めることに成った時、その変化の原因が長男の戦死にあったという衝撃的な事実の吐露で哀惜の念に駆られ人間的な赦しへ通じてゆく点、終盤結婚を申し込んできたジョージの申し出を拒否せざるを得なかったドリスに妻が亡くなった話をする段と共にその人にとって人生最大の事件が生身に杭を打ち込むような衝撃で描かれ、ジョージの経験する家族の死に対してドリスには新たな生命の誕生が描かれる。何とドリスの出産には医師が間に合わず新生児を取り上げたのはジョージなのだが、この時主導権を握っていたのは無論ドリスであり、ジェンダーギャップで悩まされている女性による逆転という点が興味深い。
     観ている者を圧倒する場面やハラハラドキドキさせる展開に対し(例えば、ドリスが急に陣痛に襲われて破水の最中に掛かってくる電話等)生きる事の靭さと逞しさをユーモアさえ交えて対比、人生の諸相を実に見事に描いた作品である、
     また、今作で極めて興味深いのは、会う度に互いの連れ合いに関してこの1年で一番良かった点と悪かった点について話し、各々の連れ合いには1度も会ったことが無いにも拘らず恰も自分の親友ででもあるかのような親近感と人間的な感情を持つに至っていることだ。これが終盤の何とも言えな深い情緒と2人の生きて来た人生の厚み深みをしみじみ実感させる描写をする際、実に大きく説得力のある布石として機能してくる。無論、最後の最後にオチ迄つける作家のサービス精神もアメリカらしい。


    5

    2021/11/12 14:38

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    0

  • みかんさんへ
    ハンダラです、返信が遅くなり申し訳ありません。
    お蔭様で体調は可成り良くなってきました。この処
    食事に気をつけ、酒を完全に断ち薬をキチンと服用して
    成果が出ているようです。
     ガザに限らずパレスチナ問題は当に世界の矛盾がこの1点に集中して
    顕れている事象だと自分のみならず、世界の深刻な問題についてキチンと考えている
    研究者の殆どが考えていることです。無論、日本で最も著名なパレスチナ研究者や中東に
    重きを置いた国際関係研究者の多くは自分の知り合いですから結構あちこちでお会いしたり、お会いする度に話をさせて頂いたりしています。また、彼らの開く研究会にも散々参加してきているので結構懇意でもあるのです。文科省から補助金が出る研究会が東大や京大、外大、上智、千葉大等々でも5年ワンクールで開催されてきていたのでそれらに通い始めて既に20年以上にもなりますか。各大学同士の連携で早稲田や慶応等で研究会が開かれることもあり、それとは別に社会人枠で参加していた立教のラテンアメリカ研究所での講義などもあって結構研究者との付き合いが多いのです。親しい研究者から出てみたらと紹介されて行っていた東大の哲学研究会もありましたしね。更に討論塾という既に亡くなった研究者の立ち上げたムーブメントがあってそこのメンバーに誘われて塾員になったのですが、塾員の半分程度が研究者つまり大学教授で残り半分程度が社会人で職業は理科研社員、出版社社長、外国人に日本語を教える教師、少し昔(200年くらい昔)の管楽器の世界的奏者、外資系企業の女性重役、米国に本社を置くIT企業の日本の関連企業元社長等に高校の極めて優秀な社会科教師、フーテンの自分です。今度、討論塾で為された討論を纏めた本を1冊差し上げましょう。(ちょっと古い版なので自分が参加した最近の内容は含まれていませんが)様々な問題にアプローチしていて、討論という対話の形式ですから演劇にも参考になるかも知れません。次の公演、愉しみにしています。
    では。

    2024/04/20 14:09

    ハンダラさん、ご返信ありがとうございます!
    体調がお悪かったとのこと、大変でしたね!
    どうぞしっかり治療と休養にして、きちんと治してくださいね。
    最近、本当に健康の大切さを思います。
    くれぐれもお大事なさってくださいませ。

    ガザについて。
    先日「行ったり来たり」を観劇した際に、アフタートークで研究者の方からガザの現状に聞き、ハッと目が覚めた思いでした。
    ニュースでは観ていたつもりでいましたが、あまりに悲惨な現状に、私はちゃんと考えることから逃げていたんだなあと、思い知りました。
    本当にいろいろ考えさせられます。

    私共の次回公演開催が決定しました。
    こちらも大きな社会問題がテーマになった作品です。
    近くご案内いたしますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

    2024/04/18 10:53

    みかんさんへ
    お久しぶりです、共感して頂き嬉しく存じま
    小生、1月中旬に余りにしんどくて医者へ行ったら
    血圧が下40、上62という状態で下手をすると又死に損なう状態でした。
    掛かりつけの医院が小規模で入院施設が無い為、医師があちこち入院できるか
    当たってくれたのですが行ったのが夕方だったこともありその日は点滴を打ってもらって
    暫く医院で休み、自宅に戻ったのですが容体が急変するような時は直ぐ救急車を呼ぶように指示され翌日、急患扱いで診療を受けられるよう紹介状を書いて貰って大きな病院に通院しています。大分回復はしてきたものの13㎏ほど痩せました。
     毎日気掛かりなことは、自分の健康のことなどより、ガザだけで10人程いる知り合いのパレスチナ人の安否だったのですが10日ほど前に奇蹟的にうち7人が生き残っていることが確認できましたが、皆ガリガリに痩せ、親族・眷属を失くしたり傷つけられていない人は一人も居ないことです。死者の7割以上が子供と女性というジェノサイドというより絶滅収容所というのが真実です。またイスラエル側の兵士を除く死者1200人のうち数百人はイスラエル軍によって殺されている可能性が大ですし、また口を開けば嘘をつくとイスラエル国内では有名なネタニヤフに対し、かつてイスラエル首相を務めたバラクはシファ病院の地下トンネルはイスラエル軍がガザを統治していた際に堀ったものだと証言していることからみて、先ず事実に間違いはないでしょう。
     今回イランが初め直接イスラエルを攻撃したことに対し西側と米はイランを非難していますが、今回も最初に国際法を破ったのはイスラエルの方です。相変わらずの茶番ですね。また。

    2024/04/16 02:13

    ハンダラ様、この度はご観劇いただき、また、詳細なご批評をくださいまして、誠にありがとうございました!
    追記に気づくのが遅れ、御礼が大変遅くなり、大変申し訳ありませんでした。
    おっしゃるとおり、この本には、ジェンダーギャップや人種問題、ベトナム戦争の話など、アメリカの闇ともいえる社会問題が、各時代に織り込まれています。
    それが私にはとても興味深く、この本を選んだ大きな理由の一つでした。
    ドリスの夫は、アメリカの古き良きパパの典型であったと思われます。
    時代を経て大きく変わってきて…
    相反するように、同じ時期、ドリスが人間として目覚め、大きく成長していく様子は、演じ手として面白く大いにやりがいのあるところでした。

    ↓この後、引用
    「また、今作で極めて興味深いのは、会う度に互いの連れ合いに関してこの1年で一番良かった点と悪かった点について話し、各々の連れ合いには1度も会ったことが無いにも拘らず恰も自分の親友ででもあるかのような親近感と人間的な感情を持つに至っていることだ。これが終盤の何とも言えな深い情緒と2人の生きて来た人生の厚み深みをしみじみ実感させる描写をする際、実に大きく説得力のある布石として機能してくる。無論、最後の最後にオチ迄つける作家のサービス精神もアメリカらしい。」
    この部分にも、大いに共感いたします。
    この二人が、それぞれの連れ合いの話をするのが、人間的でなんともいえずにいいですね!まさにおっしゃる通りです。

    公演開催時の思いがよみがえるようです。本当にありがとうございました!
    これからも精進してまいりますので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

    2024/04/15 23:01

    みかんさんへ
     大変遅くなりましたが、追記しておきました。
                      ハンダラ

    2021/12/22 11:49

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